「——そこまでにしていただきましょうか」
氷のように冷たく、それでいてよく通る凜とした声が、イケメンの背後から降ってきた。
そこに立っていたのは、黒のタイトなパンツスーツを完璧に着こなした、切れ長の目が特徴的なクールビューティーだった。
冷徹なオーラと圧倒的なプレッシャーに気圧されたのか、イケメンは「あ、すんません……」と捨て台詞もなく逃げるように去っていく。
私は内心で安堵のため息をつきながら、救世主……もとい、一番厄介な人物を見上げた。
「相変わらず、政府の意図をガン無視して趣味に没頭しているようですね。特例変換者・認識番号073『高嶺』」
彼女は私の向かいの席に許可もなく優雅に腰を下ろすと、フレームなしの眼鏡の奥から、観察するように私を射抜いた。
「私の監視員殿は、休日もストーカー業務でお疲れ様ですわね」
私はパタンと文庫本を閉じ、淑女の笑みを崩さないままチクリと刺し返す。
彼女の名前は、霧島(きりしま)。
私をタカシから高嶺へと改造し、このバグったような偽りの人生をプロデュースした『少子化対策特別省』のエリート官僚だ。
「ストーカーではありません。国の最高機密かつ特別資産であるあなたが、正しく『優秀な男性とつがう』ための経過観察です。今の男性などはスペック的に悪くなかったはずですが?」
「あんな底の浅いナンパ男の遺伝子なんて、国の将来の役には立ちませんわ」
「口を開けば皮肉ばかり。中身は陰湿なオタク少年のままですね」
霧島は呆れたようにため息をつき、テーブルの上にタブレット端末を滑らせてきた。
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