d00048e3 No.4310
俺は地縛霊だ。
この古い、苔むした寺の山門が、俺の世界のすべて。
いつからここにいるのか、何で死んだのかさえ、霧の彼方に消えかかっている。
ただ心に深く刻まれた「未練」だけが、俺をこの場所に縫い付けている。
毎日、人々の営みをただ眺めるだけの、色彩を欠いた日々。
誰からも見えず、誰にも触れられず、ただ時間が過ぎていく。
しかし、ある日、彼女がやってきた。
生命力にあふれた大きな瞳をした女子高生。
彼女がこの門をくぐった瞬間、俺の世界に色が戻った気がした。
彼女の姿は、まるでこの古びた風景の中で、そこだけ光が灯ったように鮮やかだった。
彼女は、俺の存在などこれっぽっちも気付くことなく、鼻歌交じりに、どこかへ向かって歩いていく。
その無防備さに、俺の中に眠っていた、とてつもない執着が目を覚ました。
「……あいつなら、俺の未練を晴らせるかもしれない」
俺は、自分でも驚くほどの速度で、彼女の背中に向かって飛んだ。
俺は頼りなげに浮いている小さな青い幽霊のような姿をしていたかもしれない。
そして――。
「え? うわあああ、何これ!? 体が勝手に動く!?」
俺は彼女の中に入り込んだ。
「な、何!? 誰かいるの!? 私の体の中で、知らない男の声が……!」
「ごめんな、驚かせて。俺は地縛霊。君の体を借りて、一つだけ、どうしてもやり残したことを片付けさせてもらう。」
彼女の視界を共有し、彼女の指先を動かす。
不思議な感覚だった。
冷たい俺の魂が、彼女の温かさに包まれていく。
俺たちの、奇妙な二人三脚(二人羽織?)の生活が、ここから始まったのだ。
最初の未練は……あの時、あいつに渡せなかった、手紙。