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朱に交われば赤くなるという言葉があるらしい。人間はその取り巻く環境によって良くもなれば悪くもなるということらしい。
まあ、今のわたし、、、今の俺を見れば分かるね。謎の病気で女の子になって転校した直後にできた友達がヤンキーだったからなのか、気がついたらわたしも、都会の駅の隅で立ちんぼなんかしてるんだから。いや、座ってるけどさ。
赤めの長い髪に、派手な化粧。誰がどうみてもヤンキーだ。
「彼女ー。幾ら?」
早速若いリーマンっぽい男が話しかけてきた。割と好みのタイプだ。
「ん〜。ホテル代別で三万円かな。」
ゴム代やら避妊薬やらそのほか細々とした物だとかで、この商売も結構お金がかかるのだ。
「おっ、交渉成立だね?」
男はわたしを、早速場末のラブホテルに連れ込んだ。
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安っぽい壁紙と無駄に派手な照明が照らす、ラブホテルの一室。
ベッドの端に腰掛けたわたしを、男はベッドに近づくでもなく、少し離れた場所からじっと見つめてきた。
……あれ? なんか雰囲気が変わった? さっきまで街頭で見せていたニヤニヤしたスケベ顔は消え、やたらと鋭い、真剣な目つきでわたしを凝視している。
「……なぁ、お前。元は男だろ」
「――は?」
唐突に突きつけられた言葉に、心臓がドクンと跳ね上がった。
「な、何言っちゃってんのお兄さん? 冗談キツいんだけど。わたしが男なわけないじゃん、ほら、胸だって――」
「誤魔化さなくていい。立ち振る舞いの端々もそうだが、その手首の骨格、それに『変異性体質改変症』特有の微細な皮膚の質感だ。俺には分かる」
男は深い溜め息をつくと、首元のネクタイを緩め、ソファに腰掛けた。
「な、なんで……なんでそれを……」
「なんで分かるかって?」
男は己の手の甲を見つめ、どこか遠くを見るような目でつぶやいた。
「俺も昔、女だったからだ。」
「え……!?」
思考が完全にフリーズした。
目の前にいる、どこからどう見てもシュッとした男くさいスーツ姿の青年。その彼が、元は女?
「その謎の病気で突然身体が変わって、世界が一変して……現実から逃げたくて自暴自棄になる気持ちは痛いほど分かる。だがな、だからってこんな真似して自分を傷つけるような真似すんじゃねえよ!」
男の言葉は、説教というよりは、あまりにも切実で、優しさに満ちた説得だった。
突然女の子になってしまい、親の目も怖くなり、転校先で流されるままヤンキーになり、挙げ句の果てにこんな場所まで落ちぶれてしまった。
赤髪ロングと派手なメイクで固めた鎧の裏にある、情けなくて無力な「俺」のままの心が見透かされた気がして、急に視界が歪んだ。
「だって……しょうがないだろ! こんな体になっちゃって、家にも学校にも居場所なんてないんだよ! わたしが……俺がこれからどう生きていけばいいのか、誰も教えてくれなかったんだから……!」
強がりもメイクもボロボロと剥がれ落ちて、子供みたいに叫んでしまったわたしに、男は静かに近づくと、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「行き場がないなら――うちに来い」
「……え?」
「お前が自分の人生とちゃんと向き合えるようになるまで、俺の部屋に置かせてやる。こんな街の隅で擦り切れていくよりは、いくらかマシな選択肢だろ?」
強引で、けれどどこまでも温かいその手差しに、俺は首を縦に振る以外の選択肢を持っていなかった。
連れてこられた男のマンションは、嫌になるくらい綺麗に整頓されていた。
通された部屋のベッドに倒れ込むと、それまでの緊張と疲労が一気に押し寄せてきて、わたしは泥のように眠りに落ちた。
――翌朝。
香ばしい小麦の香りと、お腹をくすぐる温かいスープの匂いで目を覚ました。
昨夜、メイクを完全に落として素顔に戻り、男から借りたブカブカのTシャツを着たまま、パタパタとリビングへ向かう。
キッチンには、エプロン姿の男が立っていた。
「あ、起きたか。顔洗ってこい、すぐメシにするぞ」
テーブルの上に並べられていたのは――
こんがりと絶妙な焼き色のついたトーストパン。
パセリが散らされた、湯気の立つコンソメスープ。
そして、黄身がほどよくトロトロの目玉焼き。
なんてことのない、けれど今のわたしにとっては眩しすぎるくらいに普通で、あたたかい朝食。
湯気の向こうで笑う男の顔を見つめながら、わたしは派手なヤンキーだった昨日までの自分が、少しずつ溶けていくような気がしていた。