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/tachiha/ - たちは板κ

リレー小説用
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524beb62 No.4014

524beb62 No.4015

「〜〜♪」
カラオケボックスの重い扉を振動させる大音量。
デンモクを握りしめた俺——いや、今の俺は、絶妙なカールがかかったボブカットを揺らすピチピチの女子高校生、本田詩織だ。
画面に映る歌詞に合わせて声を張れば、喉からは自分でも少し耳痒くなるような、可憐で高めの歌声が飛び出す。
「詩織、まじ歌うまくなってない!? てかその曲、最近リリースされたやつじゃん!」
「やば〜い! 詩織めっちゃ乗ってる〜〜!」
タンバリンをシャカシャカ鳴らしながら盛り上がってくれるのは、詩織のクラスメイトである女子二人組。
俺はマイクを片手に、ウインクひとつ飛ばしてみせる。
「ふふん、昨日めっちゃ練習したからね〜! 次の曲、誰入れる?」
完璧だ。
鏡を見なくてもわかる。今の俺はどこからどう見ても、仕草から声のトーン、さらには「どの歌が好きか」という細かい記憶に至るまで、100%本田詩織そのものだった。


思い返せば、今日の仕事の始まりは早朝の公園だった。
薄暗い女子トイレの前。
約束の時間の五分前、サングラスをかけて周囲をビクビクと警戒していた本物の詩織が、俺を見つけて息を呑んだ。
『あ、あなたが……なりすまし屋さん……?』
『そうだよ、詩織ちゃん。本当に大丈夫だから、落ち着いて』
あらかじめ別の女の子の姿に変身していた俺は、優しく微笑んで見せた。
彼女の依頼理由はシンプル。「大好きな彼氏と日帰り旅行に行きたいけれど、親や友達の目が厳しくてアリバイが欲しい」というもの。
数ある依頼の中から俺がこれを選んだのは、単純に日程が合ったことと、『女子高生として放課後カラオケを楽しむ』というのがなかなか面白そうだったからだ。
お金をもらえて、放課後もエンジョイできる。一石二鳥にも程がある。
『じゃあ……お願い、します……っ』
詩織ちゃんが覚悟を決めて目を閉じる。
俺は彼女の細い肩を引き寄せ、唇を重ねた——ディープキス。
(粘膜と粘膜の接触により、完全擬態発動。さらに自分の粘膜同士を接触させ、記憶のコピー完了)
脳内に一気に流れ込む、詩織ちゃんの記憶。
友人関係、カラオケで歌う曲のリスト、彼氏への甘い想い、そして制服の畳み方に至るまで。
直後、個室トイレで二人で服を脱ぎ交わした。
制服どころか、今俺が身につけている下着のサイズや肌触りまで、すべて彼女から直接借り受けた本物だ。
『じゃ、行ってくるね! 本当にありがとう!』
私服に着替え、サングラスをかけ直した本物の詩織ちゃんは、彼氏の待つ駅へと疾走していった。そして俺は、彼女になり代わって登校し、無事に学校生活をクリア。
——で、今に至るというわけだ。
女子高生のカラオケは戦場(と癒やし)である
「ねえ詩織〜、ドリンクおかわり行ってこようよ!」
「あ、行く行く! パフェも頼んじゃおうかな〜」
カラオケの薄暗い室内。
ポテトをつまみながら、女子特有の甲高い声で盛り上がる。
(いや〜なりすまし屋のバイト、最高だな)
体型も声も完全に詩織ちゃんだから、自分の本来の性別なんて完全に忘れてしまいそうだ。
下着のフィット感にもすっかり慣れてしまった。
記憶をコピーしているおかげで、二人が振ってくる「この前のテストさ〜」なんてローカルネタにも完璧に追従できる。
「詩織ってさ、最近なんか可愛くなったよね? 恋でもしてんの〜?」
「えっ、な、なんでよ〜! してないし!」
わざとらしく頬を赤らめて見せると、二人は「怪しい〜〜!」と大爆笑。
完璧なアリバイ作り。
依頼人の詩織ちゃんは今頃、彼氏と最高の時間を過ごしているだろう。
そして俺は、彼女の友達と最高に楽しい放課後を過ごし、後でしっかり報酬をもらう。
「よしっ、次はみんなでアニソン歌うよ〜! 予約入れちゃうね!」
デンモクを操作しながら、俺は心の中でフフッと笑った。
なりすまし屋キヨヒコ、今日の任務も大成功——まだまだカラオケの時間は終わらない!

60496429 No.4018

「ねえねえ、次これやろうよ! ポッキーゲーム!」
「きゃー! やばっ、マジで言ってる!?」
テーブルの上にバンッと置かれたのは、極細タイプのポッキー。
友達の一人がイタズラっぽく目を輝かせ、俺——いや、詩織の顔前に箱を突きつけてくる。
(うおっ!距離近ッ!? 女子高生のノリってこんな密着度高めなの!?)
「ほら詩織! 最初はウチと詩織ね! 負けた方が彼氏のノリで胸キュンセリフね!」
「えっ、ちょっと待ってよ〜! なんで私からなの〜!?」
嫌がるフリをして声を高く張るものの、身体は一瞬で距離を詰められる。
ふわりと鼻をくすぐる、友達のシャンプーの甘い匂い。膝と膝がぴったりくっついていて、吐息がかかる距離だ。
(やばい、心の準備が! 体は完全に詩織ちゃんだから違和感ないはずだけど、元が野郎の俺としてはこのゼロ距離は心臓に悪いって!)
「はい、くわえてくわえて! カウント行くよ〜、3、2、1……すたーと!」
「んぐ……っ!」
ポリッ、ポリッ、と音を立てて互いにポッキーを縮めていく。
どんどん近づいてくる友達の顔。
長いまつ毛までハッキリ見える。
(うわ近っ! これ、どこまで攻めるのが女子高生として正解なんだ!? 記憶の中の詩織ちゃんなら……ここはノリよくギリギリまで攻めるタイプ!)
サクッ、と最後の数ミリ。
唇が触れるか触れないかの超至近距離で、俺はわざと「きゃーっ!」と叫んでポッキーを噛みちぎった。
「あははは! 詩織の負け〜〜! 唇触れたじゃん!」
「触れてないってば〜! ギリギリセーフだよ〜!」
「ダ〜メ、負けは負け! ほら、罰ゲーム! 最近の彼氏とのキュンとした話、話すこと!」
一気にヒートアップする室内の空気。二人が両側から俺の腕に絡みついてきて、左右から抱きつかれるような形になる。
柔らかい感触と体温がダイレクトに伝わってきて、頭がどうにかなりそうだ。
(ぐわあああ! 左右からの挟み撃ち!? 女子同士のスキンシップ、遠慮なさすぎるだろ! 嬉しい悲鳴だけど、なりすまし屋の理性が試されている!)
「ほらほら〜! 詩織ってば彼氏とどこまで行ったの〜? こないだのデートでなんかあったでしょ!」
「な、なに言ってるのよ〜! 別にフツーだよ、フツー!」
「嘘だ〜! ほら、顔赤くなってる! 吐け〜! 吐くんだ〜!」
キャッキャと体を揺すられ、俺は詩織ちゃんの記憶を高速で検索する。
彼氏との甘い思い出、手を繋いだ時の感覚、車内で囁かれたセリフ。
(よし、詩織ちゃんの記憶から一番甘酸っぱいやつをピックアップして、ちょっと盛って話してやるか!)
「もー、分かったわよ! 話せばいいんでしょ、話せば!」
俺はわざとらしく溜め息をつき、髪を耳にかけながら、恥ずかしそうに視線を落としてみせた。
「あのね……こないだ二人で帰ってる時、急に手引っ張られてさ……『お前のこと、友達に見せるの勿体ないくらい可愛い』って……耳元で言われたの……っ」
「ギャーーーーーッ!!」
「やばい! 激甘すぎる!! 身悶える!!」
カラオケルームに響き渡る女子たちの悲鳴。二人はクッションを抱えてバタバタと悶絶している。
(ふふん、完璧な演技だろ。詩織ちゃんの彼氏、なかなかクサいセリフ吐く奴で助かったぜ)
「詩織最高〜〜! もう一回ポッキーゲームやろ! 次はもっと攻めるからね!」
「ちょっと〜! もう勘弁してよ〜!」
ワイワイと盛り上がる室内で、俺はジュースのストローをすいながら、心の中で大きく息を吐く。
(女子高生の放課後、想像以上にハードで、想像以上に刺激的だ!)

56d9e6a3 No.4023

「詩織〜! こっちこっち! このアニメTシャツ超可愛くない!?」
「あ、本当だ〜! それ、今めっちゃバズってるやつじゃん!」
カラオケボックスを後にした俺たちは、そのまま駅ビル内のユニクロへと向かった。
本物の詩織ちゃんとの合流時間までは、まだふたつの時間がたっぷり残っている。
ここで「じゃあね」と別れても良かったんだが……女子高生の放課後フルコースを最後まで満喫したくなった俺は、二人のショッピングに付き合うことにしたのだ。
店内をブラブラしながら、友達が目当てのキャラTシャツをあてがってキャッキャと盛り上がる。
(ふぅ、カラオケの超至近距離スキンシップを乗り越えた俺に、もう恐れるものはないぜ)
なんて余裕をぶっこいていた、その直後だった。
「あ、ちょっと下着も見ちゃお〜! 新しい色出てないかな」
「あ、いいね〜! 行こう行こう!」
二人に腕を引っ張られるまま足を踏み入れたのは——インナー・下着コーナー。
そこに広がっていたのは、シンプルだけどカラフルで洗練された、色とりどりのシームレスパンツやブラトップがずらりと並ぶ、まさに「よりどりみどり」の圧巻の光景だった。
(うおっ! ここ、男の身としては一番足を踏み入れちゃいけない聖域(サンクチュアリ)!)
一瞬、元・野郎としての本能が警報を鳴らして足がすくみかける。
だが、すぐに頭を振った。
(落ち着け自分! 今の俺はどこからどう見ても、可愛いボブカットの女子高生・本田詩織! パンツの棚の前に立っていても一切の不審感はない!……ない、はず!)
「ねえ詩織〜、このくすみピンク可愛くない? 詩織こういうの似合いそう!」
「えっ!? あ、あぁ〜……本当だ、絶妙な色味で可愛いね……?」
友達がフツーのテンションで、手に取ったショーツを俺の身体にあてがってくる。
(近っ! ていうか布地の質感を指先で確かめるな! 詩織ちゃんの体で感じちゃってるから、謎の背徳感がすごいのよ!)
「詩織ってさ、今日履いてる下着もシンプル系だっけ? 今日の制服、スカート短めだからライン出ないやつ重宝するよね〜」
「あ、うん! まさにシームレスのやつ履いてるよ! すごい動きやすくて重宝してるっていうか……あはは……」
(やばい、今まさに俺が身につけている詩織ちゃんから借りた下着のリアルな履き心地を思い出してしまった。フィット感抜群です、とは口が裂けても言えねぇ!)
「あー! このミントグリーンも捨てがたいなぁ! 3枚買うと安くなるし、詩織も1枚買わない? 色違いでおそろにしよーよ!」
「えっ、おそろ!? う、うん、いいね! じゃあ私、このネイビーにしようかな……!」
手に取ったのは、ツルツルとした手触りのシンプルなショーツ。
(待てよ……これ買ったら、今日のバイト代から引かれるのか? いや、詩織ちゃんへのお土産(?)としてプレゼントしてあげるのもアリか? って、俺が女子高生のパンツ選んで買おうとしてる構図、冷静に考えたら狂気すぎるだろ!)
「決まり〜! じゃあTシャツとパンツ持ってレジ行こ! 詩織、買い物終わったらタピオカ飲んで帰ろーね!」
「オッケー! レジ、あっちだね〜!」
カゴにカラフルなパンツを放り込み、レジへ向かう二人の後ろ姿を追いかける。
(なりすまし屋の仕事。カラオケだけじゃなくて、買い物までこんなに刺激的だとは聞いてないぞ! でもまあ、女子高生の日常を100%楽しむって意味じゃ、最高の体験だな!)
胸の鼓動をどうにか落ち着かせつつ、俺はカゴの中のネイビーのショーツをチラッと見て、心の中でフッと苦笑したのだった。

a1edbc59 No.4024

「じゃあね詩織〜! 今日超楽しかった! またカラオケ行こーね!」
「うん! また遊ぼうね〜、気をつけて帰ってね〜!」
二人と手を振り合い、駅前で別れた俺は、ずっしりと重いユニクロの紙袋を手に持ち直した。
中には、友達とお揃いで買ったネイビーのパンツが入っている。
夕暮れ時の街を抜け、朝と同じ公園へと足を向ける。
木々の隙間から見えたベンチには、すでに私服姿の詩織ちゃんが座っていた。
サングラスを外し、スマホをチラチラと気にしながら、どこかソワソワした様子だ。
「あ、詩織ちゃん」
「あっ……なりすまし屋さん! お帰りなさい!」
俺の姿——自分自身の姿を見つけると、彼女はほっと胸を撫でおろした。
「デート、楽しかった?」
「はい! もう、本当に最高でした! あの、学校の方は大丈夫でしたか……?」
「うん、全然問題なし。テスト範囲のノートも取っておいたし、放課後は友達二人とカラオケに行って、帰り際にユニクロで買い物してきたよ。変な疑いは一切持たれてないから安心して」
余計な雑談——例えばポッキーゲームで唇が急接近したことや、彼氏との甘いセリフを暴露してキャッキャと身悶えしていたことなどは、プロの配慮として綺麗サッパリ省いて報告する。
必要最小限の引き継ぎこそが「なりすまし屋」の流儀だ。
「よかったぁ! 本当にありがとうございます!」
詩織ちゃんは心底嬉しそうに微笑むと、バッグから封筒を取り出して俺に手渡した。
今日の報酬だ。
「それと、これ……お洋服です。公園のトイレで着替えてきますね」
二人で再び公衆トイレへと向かい、手早く着替えを済ませる。
俺は自分の本来の服装に戻り、詩織ちゃんも見慣れた制服姿へと戻った。
「あの、制服と一緒に……その、今朝お貸しした下着もお返ししますね」
「あ、それなんですけど……下着は返してもらわなくて大丈夫です! なんか……他人が履いたものって、ちょっと抵抗があって。よかったらそのまま処分するか、貰ってください」
「あ、そう? じゃあこっちで適切に処分しておきますね」
(まあ、そりゃそうだよな。一回誰かに履かれた下着なんて、女の子なら普通はいらないか)
ユニクロの紙袋の底に、朝履かせてもらったシームレスショーツをそっと収める。これで今日買った分と合わせて、手元には彼女のパンツと新品のパンツが揃ったことになる。
なんだこの状況。
「それじゃあ、私行きますね! 本当に助かりました、なりすまし屋さん!」
手を振って笑顔で走り去っていく詩織ちゃんの背中を、俺は見送った。
(ふぅ……今日も無事に仕事完了、と)
ポケットの中で報酬の封筒を確かめながら、俺はふと、去っていく彼女の姿を見て思ってしまった。
(それにしても……詩織ちゃんは俺のことを『なりすましの特殊能力を持った女の子』だと完全に思い込んでいるわけだけど……)
もし、彼女が知ったらどうなるだろう。
今日一日、自分の身代わりになって友達とカラオケで盛り上がり、ゼロ距離でポッキーゲームをし、恋バナで盛り上がり、下着コーナーでパンツを選び、そして今朝まで自分の制服と下着を完璧に着こなしていた「なりすまし屋」の正体が、男子大学生だったという事実を。
(うん、絶対言えないな。ショックで卒倒するどころじゃ済まないわ)
俺は苦笑いしながら頭をかき、夕闇が迫る公園を後にした。
さあ、手に入れた報酬で今夜は何を食べようか。
なりすまし屋の完璧な一日は、こうして幕を閉じたのだった。

0ec60f92 No.4209

次回は主人公 (男子大学生) 視点でのプロローグをお願いします。

2e67897c No.4226

「お客様、そちらのC70とD65、それからこちらのB75もお会計でよろしいでしょうか……?」
「あ、はい! あとそっちのA70も追加でお願いします!」
高級下着ショップのレジ前。
店員さんが「この綺麗なお姉さん、一体何者……?」と言いたげな、実に味わい深い眼差しを俺に注いでいる。
無理もない。
一回の買い物で、あからさまにカップもアンダーもバラバラな下着をまとめ買いしているのだから。

改めまして、俺はキヨヒコ。
どこにでもいるフツーの男子大学生——というのは世仮の姿。
俺には、ちょっと特殊すぎる能力がある。
相手の粘膜に触れると、その姿や声、体型を100%完全擬態できる。
さらに、自分の粘膜同士を接触させることで、相手の記憶までコピーできるという代物だ。
この能力を活かし、俺は裏で『なりすまし屋』として金を稼いでいる。
アリバイ作り、行きたくない集まりの代役、その他諸々。
完全無欠の変身術と記憶コピーのおかげで、依頼達成率は100%だ。
で、今の俺はというと——
(髪をサラッと耳にかける)
清楚なロングヘアに、上品なニットとロングスカート。どこからどう見ても『架空の女子大学に通う、文学部の清楚系美人お姉さん』だ。
今回は誰かの擬態ではなく、過去にストックしたパーツを組み合わせて作ったオリジナルの女子大生姿。
なぜこんな格好をして、休日の郊外アウトレットモールを歩き回っているのかというと……。
(前回の「本田詩織ちゃん依頼」を思い出す)
そう、前回の依頼で痛感したのだ。
依頼主から制服や服を借りるのはいい。
だが、下着の貸し借りは色々と問題が多すぎる!!
返されても困るし、かといって毎回新品を依頼主に買わせるのも不躾だ。
ならばどうするか?
答えは簡単。
『なりすまし屋として、あらゆる体型に対応できる下着のバリエーションを自前でストックしておくこと』! これぞプロの業務改善である。

2e67897c No.4227

「よし、次はあっちのリーズナブル系のお店行ってみよう!」
鏡に映る文学部美人の姿で優雅に歩きながら、俺は次の獲物(下着)を求めてアウトレットモールを闊歩する。
まず一軒目は、海外のレースをふんだんに使った高級ランジェリーショップ。
一着で数万円もするような勝負下着エリアだ。
ここでは、大人っぽいお姉さん系やリッチな依頼主(あるいはターゲット)になりすます時のための高級ラインを確保。
そして二軒目は、ティーンに大人気のカラフルでリーズナブルなカジュアルショップ。
「いらっしゃいませ〜! 本日ブラショーツセットが3点で3,900円ですよ〜!」
明るい店員の声に誘われ、ワゴンの中に手を伸ばす。
(小柄な高校生用の70Aから、標準的な65C、ちょっと豊満なタイプの75Dまで。よし、このへんを網羅しておけば大抵の依頼には対応できるはず!)
真剣な目つきでサイズタグを確認し、カゴに次々とパンツとブラを放り込んでいく。
外見が「文学部の清楚系美人」だからこそ、周りの客も最初は「オシャレなお姉さんが買い物してるな」くらいにしか思わない。
しかし、レジに持って行った瞬間、ドラマが生まれる。
「あ、あの……お客様? こちら、サイズがかなりバラバラですが……お友達へのプレゼントでしょうか……?」
若い店員さんが、困惑と好奇心が混ざった目で見つめてくる。
「あ、ええ! そうなんです! サークルの後輩たちにサプライズでプレゼントしようと思って! みんなサイズが違ってて大変で〜!」
俺は速攻で「文学部美人の爽やかな微笑み」を浮かべ、完璧な女子トーンで嘘をついた。
「さ、サークルの後輩に下着のプレゼントですか!? す、すごい太っ腹な先輩ですね!」
(よし、押し通せた! さすが俺の完璧な演技力!)
会計を済ませ、紙袋を両手に下げて店を出る。
高級店のシックな紙袋と、ファストファッション店の可愛らしい紙袋が両手にずっしり。
中身はすべて、様々なサイズのブラとショーツだ。
(これでどんな体型の女の子になりすます依頼が来ても、即座に自前の下着で対応できるぞ)
ベンチに腰掛け、冷たいカフェラテを一口すいーっと飲む。
自分の姿は相変わらず、通りすがる男たちが思わず二度見していくレベルの文学部美人だ。
男子大学生としての俺なら絶対に入れない領域を堂々と制覇し、最高のコレクションを完成させた達成感が胸に広がる。
(さて、下着の準備も万全になったことだし、そろそろ次の『なりすまし』の依頼をチェックするか)
スマホを取り出し、裏の依頼用アドレスを開く。
完璧な準備を整えた俺に、次は一体どんな刺激的な日常が待っているのやら——
俺は怪しく口元をほころばせるのだった。

f858f6ee No.4230

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c745acbb No.4460

支援図書館行きを希望 & 続き希望

7df1dcbd No.4516

「……ん? ゼロの数、一、十、百、千、万……ひ、百万円!?」
アウトレットモールのカフェでカフェラテを吹きそうになり、俺は慌てて口元を拭った。
スマホの画面に表示された、裏仕事用の暗号化メール。
そこには、今まで受けてきた「放課後カラオケのアリバイ作り」やら「めんどくさい親戚の集まりの代役」とは明らかに毛色の違う、桁が二つほど多い数字が躍っていた。
シルバーウィークを数日後に控えた、ある秋晴れの日。
世間が大型連休の旅行計画で浮き足立つ中、俺の元に舞い込んできたのは、一人の『マダム』からの超破格オファーだった。
件名:【極秘】身代わり依頼について
本文:
はじめまして、なりすまし屋さん。
貴方の噂はかねがね伺っております。
今度のシルバーウィーク中、私の『身代わり』となって動いていただきたい案件がございます。
詳しい事情と内容は、セキュリティの都合上、直接お会いしてお話ししたく存じます。
なお、私の屋敷(マンション)へお越しいただく際は、守衛や近隣の目を欺くため、『貴方だと分からない適当な女性の姿』でお越しください。
着手金として30万円、依頼完了時の成功報酬として70万円、計100万円をお支払いいたします。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
(ひ、百万円だと……!? どんな重たい依頼だ!? 政治家の愛人問題か!? 巨大財閥の相続争いか!?)
一瞬、危険な匂いに野性の勘がアラートを鳴らした。
だが、銀行口座の残高と、さっき両手いっぱいに買い込んだ「あらゆるサイズの下着コレクション」の請求額を思い出し、俺は秒で覚悟を決めた。
背に腹は代えられない。それに、100万あれば半年は遊んで暮らせる!
(よし、乗った! どんな依頼だろうと、完璧に演じ切ってやるのがプロのなりすまし屋だ!)
返信フォームに「謹んでお受けいたします。本日指定のお時間にお伺いします」と打ち込み、送信ボタンをタップ。
「適当な女性の姿で来い」という指示か。
くっくっく、マダム……俺を誰だと思っている。ちょうどさっき、完璧な下着ストックを完成させたばかりの俺だぞ。
俺はアウトレットモールの多目的トイレに滑り込み、鍵をかける。
今回チョイスした擬態ストックは——『大手IT企業でバリバリ働く、仕事の出来る27歳・クール系美人秘書』だ。
キリッとした目元に、スマートなセミロング。
そして、さっきユニクロと高級店で揃えたばかりのストックから、ピッタリサイズのC70ブラックレースブラとショーツを着用!
(おおっ! 自前の下着ストック、さっそく大活躍じゃないか! サイズもジャストフィット、変な背徳感もなし! 俺の業務改善、完璧すぎるだろ!)

7df1dcbd No.4517

シックなパンツスーツに身を包み、ハイヒールをコツコツと鳴らしてトイレを出る。
鏡に映る姿は、どこからどう見ても港区のタワマンに打ち合わせに向かう洗練されたキャリアウーマンそのものだった。
電車とタクシーを乗り継ぎ、向かった先は——日本の富と権力の象徴、東京都港区。
「お客様、こちらでよろしいですか?」
「ええ、ありがとうございます」
タクシーを降りた俺の目の前にそびえ立っていたのは、見上げるほどの高層高級タワーマンションだった。
エントランスはまるで五つ星ホテルのロビー。
ガラス張りの自動ドアの向こうには、ビシッとスーツを着こなしたコンシェルジュが控え、敷地内には高級外車がずらりと並んでいる。
(うわぁ……マジで港区のガチセレブじゃん……。これ、下手なボロが出たら即社会的に消されるやつでは……?)
ゴクリ、と生唾を呑み込む。
だが、今の俺はクールな27歳美人秘書。
動揺などおくびにも出さず、ハイヒールの音を響かせて重厚な自動ドアをくぐった。
フロントで依頼主の名前を告げると、コンシェルジュは恭しく一礼し、カードキーを渡してくれた。
プライベートエレベーターに乗り込み、最上階である45階のボタンを押す。
スルスルと上昇していくエレベーターの中で、俺はスーツの襟を正した。
(成功報酬100万円の身代わり依頼……一体どんなマダムが、どんなヤバい理由で俺を待っているのか……!)
チーン、と静かな電子音が鳴り、ドアが開く。
ワンフロア一世帯と思われる贅沢な内廊下の突き当たり。
重厚な一枚板のドアの前に立ち、俺は深呼吸を一つして、静かにインターホンのボタンを押したのだった。

7df1dcbd No.4518

ピンポン、と静かなインターホンが響いた直後、重厚な一枚板のドアがすっと内側に開いた。
「いらっしゃい。あなたが『なりすまし屋』さんね?」
そこに立っていたのは——思わず呼吸を忘れるほどの美婦人だった。
年齢は40代半ばといったところだろうか。
しかし、歳月を感じさせない滑らかな肌と、エレガントに整えられたボブヘア。
シルクのブラウスの上からでもわかるしなやかで整ったスタイルからは、洗練された大人の色気が溢れ出ている。まさにガチの『セレブマダム』だ。
(うわ、マジの高級感……! さすが港区のタワマン住まい……!)
俺はすぐさま「27歳・クール系美人秘書」のスイッチを入れ、静かに会釈した。
「初めまして。ご指名ありがとうございます」
「ふふ、素敵な秘書さん姿ね。さあ、立ち話も何だから中へどうぞ」
通されたリビングは、ホテルのスイートルームも霞むほどのラグジュアリー空間だった。眼下に広がる東京の街並みを眺めながら、最高級の革張りソファに腰掛ける。
マダムは優雅に紅茶を淹れてくれ、ストレートに本題を切り出してきた。
「単刀直入に言うわね。依頼内容は、今度のシルバーウィーク中の3日間、私の『身代わり』としてこの家で過ごしてもらうことよ」
「3日間ですか」
「ええ。実はね、夫に内緒で仲の良い友人たちと極秘で温泉旅行に行く予定なの。でも夫は勘が鋭くてね……家に誰もいないと余計な疑いをかけられるでしょう? だから、あなたが私になりすまして、普通に生活していてほしいの」
(なるほど、温泉旅行のアリバイ作りか! 前回の女子高生と基本構造は一緒だな)
「旦那様との遭遇リスクについては、いかがでしょうか?」
俺が尋ねると、マダムはフッと意味深な笑みを浮かべた。
「夫は仕事中毒だから、昼間は絶対に帰ってこないわ。夜遅くにしか戻らないでしょうね。……ただ、注意してほしいのは夜よ。もしかしたら……夫婦としての『身体』を求められるかもしれないわ」
(……は??? 身 体 を 求 め ら れ る !?!?!?)
心の中で盛大にティーカップをひっくり返した。
待て待て待て! 男子大学生の俺がマダムに変身して、旦那さんと夜の営み!? どんな超展開だ!?
「ちょっと待ってください……! それは……」
「あら、怖気づいた? もちろん、うまく体調不良のフリでもして交わしてくれればいいのだけれど……」
マダムは脚を組み替え、試すような視線を俺に向けてきた。
「それに……そもそも論として、本当にあなたが私に完璧になりすませるのか、試させてもらいたいわ」
「試験、ですか?」
「ええ。私の身代わりという大役を任せるんだもの。今から『私以外の誰か』に変身して、私をまんまと騙してみせなさい。もしその試験に成功したら……報酬を倍、つまり200万円にしてあげるわ」
(に、にににに、二百万円ーーーっ!?!?!?)
脳内で札束の雨が降り注いだ。
200万! 200万あれば大学の授業料も払えて、下着ストックも最高級品でフルコンプリートできる!!
俺は即座にプロの笑みを張り直した。
「……面白いですね。その試験、引き受けましょう。ただし、マダム。完璧な身代わりを果たすためにも、一つ条件があります」
「条件?」
「私に……キスをさせてください」

7df1dcbd No.4520

マダムは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐに艶やかな笑みを浮かべた。
「あら、積極的ね。私の姿と声……それから『記憶』をコピーするためかしら?」
「まぁ、それは営業秘密ということで」
「ふふ、頼もしいわね。いいわよ、好きになさい」
マダムがゆっくりと目を閉じ、顔を寄せてくる。
熟した大人の甘い香水が鼻腔をくすぐる。
俺は秘書姿のまま顔を近づけ、彼女の柔らかい唇に自分の唇を重ねた——濃厚なディープキス。
(完全擬態発動! 粘膜同士の接触により、記憶のコピー完了!)
ズババババッ! と脳内に雪崩込んでくるマダムの膨大な記憶!
名前は「貴子」。旦那の性格、好み、毎晩のルーティン。
友人たちとの旅行計画。
そして……40代半ばとは思えぬナイスプロポーションの体型データと、普段愛用している下着のサイズ(E65の超高級ランジェリー!)に至るまで、すべてが完璧に脳内にインストールされた。
さらに、彼女の顔立ち、声、体型といった全身のパーツデータもしっかりとストック完了!
(よしっ! マダム貴子さんの完全コピーデータ、獲得!!)
唇を離すと、貴子さんは少し息を荒らげ、頬をほの紅く染めて俺を見つめていた。
「んっ……ふふ、凄いわね。」
「ありがとうございます、貴子さん。」
俺は立ち上がり、スーツの裾をピシッと整えた。
「約束通り、これから試験に入ります。一旦マンションを出て、『貴子さん以外の誰か』に姿を変えて、あなたを騙しに戻ってきます」
「あら、今からすぐ? 楽しみに待っているわね。……ふふ、私を騙せるかしら?」
「楽しみに待っていてください。200万円、しっかりいただく準備をしておいてください」
俺はマダムに爽やかな笑みを残し、重厚な玄関ドアを開けてマンションを後にした。
プライベートエレベーターで1階に降り、エントランスを抜ける。
港区の秋風が、火照った頬に心地よい。
(よーしよしよし! 貴子さんの姿と記憶のストックは完了した! 3日間の身代わり生活の予習もバッチリだ! あとは『私以外の誰かに変身してマダムを騙す』という試験をクリアして、200万を確定させるだけ……!)
さて、どんな人物に変身して、どうやってあの勘の鋭そうなマダムを完璧に担いでやろうか?
俺はニヤリと口元をほころばせながら、作戦を練るために近くのカフェへと向かったのだった。

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カフェのテラス席で、冷たいアイスコーヒーをすいーっと吸い上げながら、俺は脳内に読み込んだ『貴子さんデータベース』をじっくりと整理していた。
(待て待て待て。整理すればするほど、とんでもない事実がボロボロ出てくるぞ!?)
コピーした貴子さんの記憶。
そこにあったのは、単なる「夫へのアリバイ作り」どころではない、超弩級の秘密だった。
(貴子さん……まさかの、百合趣味ありかい!!)
そう、今回の「シルバーウィークの友人との温泉旅行」。
旦那には「昔からの女子会仲間と行く」と偽っていたが、その実態は——『秘密のレズ友たちと行く、愛と悦楽の密会温泉旅行』だったのだ!
(うわあああ! 旦那さん、完全に蚊帳の外! そりゃ旦那にバレたら一発で夫婦関係が崩壊するやつだわ! 100万円(+試験成功で200万)も払って身代わりを立てようとするわけだよ!)
だが、待てよ? と俺は膝を打った。
(貴子さんの記憶があるってことは……当然、その『レズ友』たちの顔、名前、性格、自宅の場所、さらには貴子さんとどんな甘い関係なのかまで、全部俺の頭の中に知識として入ってるってことだ!)
ニヤリと口元が歪む。
(『私以外の誰かに変身して、私を騙してみせなさい』という試験。もし俺が、貴子さんが愛してやまない【レズ友】に変身して、彼女のタワマンに突撃したらどうだ? 自分の愛する親友(恋人)が突然やってきたら、貴子さんは絶対に俺がなりすまし屋だと気づかない! 100%騙せる!)
完璧なシナリオだ。だが、ひとつだけ重大な問題がある。
(俺がそのレズ友に変身するためには、当然『キス』が必要になるんだよな)
レズ友の姿と記憶を手に入れるには、そのレズ友本人とキスをしなければならない。
どうやって不審がられずに、その女性とキスをするか?
(答えは超簡単だろ! 今の俺には何がある? そう、【貴子さんの完璧な姿と声と記憶】があるんだから!)
「ふふっ……天才かよ俺」
俺はアイスコーヒーを一気に飲み干すと、席を立った。
作戦はこうだ。
まず俺が『貴子さん本人』に扮して、ターゲットであるレズ友の自宅を訪問する。
恋人(レズ友)同士のスキンシップにかこつけて濃厚なキスをぶちかまし、粘膜接触を完了させる。
そこでレズ友の姿と記憶をストックしたら、すぐさまそのレズ友に変身して貴子さんのタワマンに戻り、貴子さんを完璧に担いで200万円をゲットする!
(よし、ターゲットは貴子さんの記憶の中で一番仲が良くて、今回の温泉旅行の発起人でもある……30代後半の妖艶な美容サロンオーナー・麻美(まみ)さんだ!)
カフェを出て近くの多目的トイレに駆け込み、カギを閉める。
俺は一気に意識を集中させ、ストックされた貴子さんのデータを身体全体に行き渡らせた。
(完全擬態——発動!)
しゅるしゅると骨格が縮み、肌が吸い付くように滑らかになっていく。
絶妙なボブヘアが揺れ、胸元には豊満なふくらみが形成される。
鏡を見ると、そこには先ほどまで話していた港区のセレブマダム・貴子さんが立っていた。
そして、ここで大活躍するのが……さっきアウトレットモールで購入した『自前のアパレルストック』!
「ふふ、貴子さんの記憶にある服のテイストと、胸にぴったりな下着は……これね」
貴子さんの艶やかな声で呟きながら、シックな黒レースのブラ&ショーツを装着。
その上に、エレガントなシルクのブラウスとタイトスカートを身にまとった。
(完璧……! どこからどう見ても、麻美さんに会いに行く途中の貴子さんそのものだ!)
鏡の前でウインクを一発飛ばし、トントンと軽やかな足取りでトイレを後にする。
タクシーを拾い、貴子さんの記憶を頼りに麻美さんが住む高級マンションの住所を伝えた。
車窓を流れる港区の街並みを眺めながら、俺は貴子さんになりきって脚を組み替える。
(さあて……まずは『貴子さん』として麻美さんの家に乗り込んで、甘いキスをいただくとしますか!)
目的地の高級マンションが見えてきた。
なりすまし屋キヨヒコ、試験突破のための第一段階——レズ友・麻美さん攻略作戦スタートだ!

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高級マンションのインターホンを鳴らすと、間もなくカチャリと重厚なロックが解除され、ドアがゆっくりと開いた。
「貴子ぉ! 連絡もなしに急にどうしたの? うれしいけど〜!」
出迎えてくれたのは、貴子の記憶にあった通りの妖艶な美女——いや、実物は記憶の映像よりも遥かに若々しく、全身から溢れ出るような色気を纏った女性だった。
ボブヘアの貴子とは対照的な、艶やかなロングヘア。
胸元の開いたキャミソールから覗くしなやかな鎖骨と豊かな胸の谷間。
肌は吸い付くように滑らかで、部屋着のショートパンツから伸びる脚のラインがあまりにも眩しい。
(うわっ、マジでエロい! 記憶で見るより実物の方が段違いに若いし、色気ダダ漏れじゃねぇか!)
脳内の『貴子データベース』が素早く起動する。
貴子と麻美——この二人の関係において、貴子が「タチ(攻め)」であり、麻美が完全なる「ネコ(受け)」だ。
「ふふ、麻美に会いたくなっちゃってね。急に来てごめんね?」
俺は貴子としての艶やかな低めの声で優しく微笑み、部屋に足を踏み入れた。
すると麻美は、まるで甘える猫のように俺(貴子)の腕にすがりつき、胸を押し当てるようにして抱きついてきた。
「もうっ、急に甘い声出しちゃってさ〜。貴子が来るなら、もっとちゃんとお迎えの準備しておいたのに……んっ」
甘え顔で口元を綻ばせる麻美の肩を、俺は貴子の慣れた手つきで引き寄せた。
そして、戸惑う隙すら与えずにその薄い唇を塞ぐ。
「ん……っ!? ふあ……っ、んっ……」
粘膜と粘膜の濃厚な接触。
互いの唾液が混ざり合い、脳内に一気にシナプスが走る。
(完全擬態発動! 麻美さんの記憶と変身パーツ、完全に獲得完了!)
ズバババッ! と頭の中に流れ込む麻美の記憶。
彼女の生い立ち、サロン経営の裏側、貴子に対する深い執着と愛好、そしてネコとして貴子にどう弄られるのが一番感じるかという超プライベートな感触データまで、一瞬にして俺の脳内にインストールされた。
唇を離すと、麻美はとろけたような目で俺を見上げ、吐息を漏らしていた。
「もうっ、いきなり激しいんだから。ねえ貴子、なんだか身体が熱くなっちゃった。汗もかいちゃったし一緒にお風呂入ろ?」
(お、お風呂ォ!?)
元・男としての理性が一瞬で警報を鳴らしたが、今の俺は完璧な「タチの貴子」だ。
ここで動揺を見せるわけにはいかない。

「ふふ、いいわよ。私が綺麗に洗ってあげる」
ガラス張りのラグジュアリーなバスルーム。
湯気が立ち込める広々としたバスタブで、俺は貴子の姿のまま、麻美と一緒にお湯に浸かっていた。
濡れた髪をかき上げる麻美の背中に回り、泡立てたスポンジで滑らかな肌を撫で上げていく。
「んっ……貴子の手、気持ちいい……。そこ、もっと強く……あっ」
麻美の喉から漏れる吐息。
貴子の記憶にある「麻美の攻め方」のデータをフル活用し、俺は指先で彼女の敏感なポイントを的確に攻め立てた。
耳元に息を吹きかけ、指先で鎖骨から胸元へと滑らせていく。
(うわあああ! これが本物のレズの絡み! 体は貴子さんだから違和感ゼロだけど、心の中のキヨヒコ(男)としては刺激が強すぎて脳みそ溶けそうだぞ!!)
「あんっ……貴子ぉ……今日、なんだかいつもよりイジワルで……すっごくイイっ」
麻美は俺の首に腕を回し、バスタブの中でうっとりと身を委ねてくる。
タチとして麻美を完璧に弄び、満足させた頃には、すっかり湯船の温度以上に二人の熱気が上がりきっていた。

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風呂から上がり、バスタオルを一枚羽織った状態でリビングに戻る。
麻美はすっかり腰が抜けたようにソファに倒れ込み、幸せそうな余韻に浸っている。
(よし……これで麻美さんの記憶とデータは完璧。次は『試験』の仕上げだ!)
俺はバッグを探るフリをして、困ったような顔を作ってみせた。
「あら嫌だ、スマホの充電が切れちゃってるわ。麻美、ちょっと携帯借りていい?」
「ん〜……いいよ〜、テーブルの上にあるから使って〜」
「ありがとう」
俺は麻美のロックのかかっていない最新スマホを手に取ると、部屋から出て、すかさず貴子の自宅(タワマン)の番号をダイヤルした。
そして、声帯を素早く変化させ、【麻美の声】でスッと息を吹き込む。
プライベートなベルが数回鳴り、ガチャリと電話が繋がった。
『はい、どちら様かしら?』
スピーカーから聞こえてきたのは、つい先ほどまで会話していた貴子本人の声。
俺は完璧な麻美のトーンで語りかけた。
「あ、貴子〜? 私だけど!今からそっち遊びに行っていい〜?」
完璧なアポ取り。
これで貴子が「はいどうぞ」と言えば、麻美に変身して乗り込むだけで試験はクリアのはずだった。
……しかし、電話の向こうの貴子は、一瞬の沈黙の後にフッと不敵な笑みを漏らした。
『あら、麻美? 珍しいわね、こんな時間に。……でも、おかしいわね』
「え? なにが〜?」
『私、今まさに「なりすまし屋さん」の試験を待っているところなの。タイミングが良すぎると思わない? ……本当に本物の麻美なら、証明してみせなさいよ』
(くっ! 流石は港区のセレブマダム、めちゃくちゃ勘が鋭い! 俺が誰かに変身して戻ってくることを見越して、疑ってかかってやがる!)
貴子は電話越しに、試すような甘い声で追撃を仕掛けてきた。
『そうね……もし本物の麻美なら、「この前一緒に買いに行ったあの勝負下着」を履いてきなさい。上がパステルピンクのレースで、下がシースルーのショーツのやつ。それを身につけてきたら、本物だって信じてあげるわ』
「え〜、あの派手なやつ〜? もう、貴子ったら意地悪なんだから……わかったわよ、履いていけばいいんでしょ!」
プツリ、と電話が切れた。
(危ねぇぇぇ!! 貴子さん、めちゃくちゃ警戒して仕掛けを作ってきたぞ! だが……甘い! 甘すぎるぜマダム!!)
電話を切った俺は、心の中でガッツポーズを決めた。
なぜなら、今の俺は麻美の記憶を丸ごとコピーしている。
「この前一緒に買いに行った勝負下着」がクローゼットのどの引き出しの、どの位置にしまってあるかまで、100%把握しているのだから!
俺は脱衣所へ向かい、こっそりと全細胞を組み替えた。
(完全擬態——発動!)
しゅるしゅると背が伸び、胸元がしなやかに変化し、髪が艶やかなロングへと伸びていく。
鏡の中に現れたのは、先ほどまで貴子(俺)に抱かれていた【麻美さん本人】そのものの姿だ。
脱衣所を出て、麻美のクローゼットへ迷わず直行する。
奥の引き出しを開けると、貴子が言っていた通りの「パステルピンクの勝負下着」が鎮座していた。
「ふふ、これね……!」
麻美(俺)は、自前の完璧な下着ストック知識をフル活用し、指定された勝負下着を身体に滑り込ませた。
繊細なレースが肌に吸い付き、シースルーのショーツがぴったりとフィットする。
さらに、麻美が普段着ているセンスの良いブランドのワンピースとハイヒールを一式借り受け、姿を整えた。
鏡に映るのは、どこからどう見ても「貴子に会いにいく準備を整えた、色気たっぷりの麻美」そのものだ。
「よし……下着も服も、完全に指定通り!」
俺はバスタオル姿でベッドに転がっている本物の麻美に貴子の声で「ちょっとお買い物行ってくるね〜!」と声をかけて外に出た。
これで、成功報酬200万円を手にするための完璧な準備が揃っている。
いざ、貴子の待つ港区のタワマンへ!

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タワマンの重厚なドアが開くと、そこには艶やかな笑みを浮かべた貴子さんが立っていた。
「いらっしゃい、麻美」
「貴子ぉ〜、来ちゃった♡」
俺は麻美さん特有の甘く可憐なトーンで声を張り、胸を躍らせて室内へ一歩踏み出す。
すると直後、貴子さんがすっと顔を近づけてきのだった。
鼻腔を鳴らすように、首筋へクンクンと鼻を寄せてくる。
「ん〜……よし。いつも麻美が使っている、あのオーガニックシャンプーの香りね」
(うおおおおっ!! 危ねぇぇぇ!!)
俺は心の中で盛大にガッツポーズを決めた。
麻美さんと一緒にお風呂に入り、彼女のシャンプーで髪を洗っておいたのが超絶大正解だったのだ。
もし自分の男の匂いや、変身前の別の香りが残っていたら一発アウトだった。
「もうっ、急に匂いなんて嗅ぎついてどうしたのよ〜?」
「ふふ、ごめんなさいね。……さ、あがって」
ラグジュアリーなリビングに通さる。
貴子さんはソファに深く腰掛け、脚を組みながら普段通りの「麻美の恋人」としての甘い雰囲気で話しかけてきた。
「それにしても、急に来るなんてどうしたの?ねぇ麻美、そういえばこの前二人で行った箱根の温泉旅館、お料理がとっても美味しかったわよねぇ?」
うっとりとした表情で思い出を語る貴子さん。
だが、俺の脳内に存在する『貴子&麻美データベース』が即座にレッドアラートを打ち鳴らした。
(待て待て待て! 二人が最後に行った温泉旅行は箱根じゃない! 熱海だ!! 完全なカマかけだぞこれ!!)
俺はフッと呆れたような溜め息をつく。
「もうっ、貴子ったら何を寝ぼけてるの〜? 私たちが行ったのは箱根じゃなくて熱海でしょ! 絶品の金目鯛の煮付け、貴子が美味しそうに食べてたじゃない」
「……ふふっ、そうだったわね。ごめんなさい、ちょっと勘違いしちゃった」
貴子さんの目が一瞬、驚きで丸くなったのを見逃さなかった。
だが、港区のセレブマダムはまだまだ諦めない。
妖艶な笑みを深め、今度はさらに踏み込んだカマを仕掛けてきた。
「ねえ……電話で約束した『あの下着』、本当に履いてきてくれたのかしら? 見せてちょうだい」

「もう、貴子の意地悪……。ほら、ちゃんと指定通りの履いてきたわよ」
俺は躊躇なくワンピースの裾を少しだけ持ち上げ、パステルピンクのレースとシースルーのショーツを披露してやった。
完璧に記憶通りの勝負下着。
一切のスキもない。
「本当に、麻美なのね……?」
貴子さんは息を呑み、ショーツの繊細なレースに指先で触れながら、信じられないというように呟いた。
カマをすべて完璧にいなされ、匂いも下着も記憶も完全に本物の「麻美」。
彼女の中で、目の前の存在が本物の親友であるという確信が固まりつつある。
(クックック! 勝ち確だ!! カマをかけてきた貴子さんを、麻美さんの完璧な姿と記憶で完全に返り討ちにしてやったぜ!!)
俺は麻美さんの妖艶な笑みを浮かべ、貴子さんの首にそっと腕を回したのだった。

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下着も、匂いも、過去の思い出のカマかけも完璧にクリアした。
しかし、目の前の貴子さんの瞳には、まだかすかな疑念の陰が揺らめいている。
組まれた脚の位置を微かに変え、彼女の視線は麻美(俺)の表情の微細な動き一つも見逃すまいと射抜くように注がれていた。
(うわ、まだ続くのかよ! どこまで慎重なんだ、このマダム……!)
だが、よく考えれば当然かもしれない。
もし万が一にも偽物だと気づかずに秘密を打ち明け、旅行中に夫へ露呈でもすれば、待っているのは即離婚、そして港区の超高層タワマンでのセレブ生活から一転しての極貧暮らしだ。
彼女にとっても人生を賭けた大博打なのだから、石橋を叩いて壊す勢いで確認してくるのも無理はない。
貴子さんは息をのむほど艶やかな笑みを唇に浮かべると、俺の胸元にそっと指先を這わせ、囁くような低い声で吐息を漏らした。
「ねえ、麻美。今夜は……いつものように、私をいじめてくれるのかしら?」
(キタッ!! またしても超危険な誘導尋問!!)
俺の脳内データベースが瞬時に警告音を鳴らす。
貴子と麻美の関係において、貴子が「タチ(攻め)」で、麻美はどこまでも甘える「ネコ(受け)」だ。
麻美が貴子をいじめることなど、二人のプレイにおいて絶対にあり得ない。
ここで「いいわよ」なんて調子に乗って攻め側に回れば、その瞬間にアウトだ。
俺は麻美特有の甘えたような眼差しを作り、ぷくっと頬を膨らませて貴子の胸にすり寄った。
「もうっ、なに言ってるの貴子ったら! いつも私をいじめて弄ぶのは、貴子のほうじゃない!……いじわる言わないで、いつものようにキスしてよっ」
完璧な返答。
麻美の記憶にある「貴子におねだりする時の癖」を完璧に再現し、上目遣いで貴子の唇を見つめる。
その瞬間だった。
貴子さんの身体が小さく跳ね、急に肩を上下させながら「はぁ……はぁ……」と荒い息を吐き出した。
そして、それまでの甘い表情を綺麗さっぱり消し去り、冷ややかな真顔で俺の肩を両手で掴み、真っ直ぐに目を覗き込んできたのだ。
「ごめんなさいね、試すような真似をして。でもこれで確信できたわ。最高の試験結果よ、なりすまし屋さん」
(————っ!!!???!!)

7df1dcbd No.4539

ドクンッ!! と心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。
背筋に一瞬で冷や汗が吹き出す。

(しまった!? どこでバレた!? 匂いか!? 下着か!? それとも麻美さんの声のトーンか!? やばいやばいやばい、200万が消えるどころか不法侵入で警察沙汰に——)
頭の中でパニックの警報が鳴り響きかけた、その刹那。
俺のプロとしての直感が、超スピードで脳内の全データを再演算した。
(待て! 落ち着けキヨヒコ!! 麻美さんの記憶、匂い、シャンプー、温泉の思い出、下着、そしてさっきのネコとしてのリアクション……スキなんて何一つなかったはずだ! ということは!)
そう、これもまた貴子さんが仕掛けた「極限状態での最終ブラフ(カマかけ)」だ!
「お前がなりすまし屋だと分かっている」とハッタリをかますことで、動揺した相手に「えっ、いつから気づいて……」と自白させる、心理戦の最高峰。
ここで一瞬でも目を泳がせたり、「どうして分かったんですか?」なんて言ったりしたら、それこそ自滅でゲームセットだ!
俺は一瞬の迷いもなく、麻美さんの顔のまま、心底不思議そうに首を傾げて見せた。
瞳を真ん丸く見開き、完璧な無知と困惑を装った「きょとん」とした渾身のとぼけ顔を作る。
「え? なに言ってるの、貴子? なに……なりすまし屋さんって? さっきから変だよ……私、麻美だよ?」
心拍数すらコントロールし、純粋な困惑だけを全身から滲み出させる。
貴子さんは俺の瞳の奥、黒目の揺らぎ、肌の僅かなピクつきに至るまで穴が開くほど見つめていたが——やがて、緊張の糸がぷつりと切れたように、フッと長い息を吐き出した。
「ふふっ、あはははっ! もう、ごめんなさい麻美! 冗談よ、ほんの冗談!」
貴子さんの顔から警戒の色が完全に消え去り、心からの安堵と熱を帯びた笑顔が弾けた。
(勝った! 勝ったぞ!! 完璧に欺き切った!!)
「もう〜! 急に怖い顔して変なこと言うからびっくりしたじゃない〜!」
俺が麻美のトーンでプンプンと怒ってみせると、貴子さんは愛おしくてたまらないというように俺の体を力強く抱きしめてきた。

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ドクンッ!! と心臓が嫌な音を立てて跳ね上がった。
背筋に一瞬で冷や汗が吹き出す。

(しまった!? どこでバレた!? 匂いか!? 下着か!? それとも麻美さんの声のトーンか!? やばいやばいやばい、200万が消えるどころか不法侵入で警察沙汰に——)
頭の中でパニックの警報が鳴り響きかけた、その刹那。
俺のプロとしての直感が、超スピードで脳内の全データを再演算した。
(待て! 落ち着けキヨヒコ!! 麻美さんの記憶、匂い、シャンプー、温泉の思い出、下着、そしてさっきのネコとしてのリアクション……スキなんて何一つなかったはずだ! ということは!)
そう、これもまた貴子さんが仕掛けた「極限状態での最終ブラフ(カマかけ)」だ!
「お前がなりすまし屋だと分かっている」とハッタリをかますことで、動揺した相手に「えっ、いつから気づいて……」と自白させる、心理戦の最高峰。
ここで一瞬でも目を泳がせたり、「どうして分かったんですか?」なんて言ったりしたら、それこそ自滅でゲームセットだ!
俺は一瞬の迷いもなく、麻美さんの顔のまま、心底不思議そうに首を傾げて見せた。
瞳を真ん丸く見開き、完璧な無知と困惑を装った「きょとん」とした渾身のとぼけ顔を作る。
「え? なに言ってるの、貴子? なに……なりすまし屋さんって? さっきから変だよ……私、麻美だよ?」
心拍数すらコントロールし、純粋な困惑だけを全身から滲み出させる。
貴子さんは俺の瞳の奥、黒目の揺らぎ、肌の僅かなピクつきに至るまで穴が開くほど見つめていたが——やがて、緊張の糸がぷつりと切れたように、フッと長い息を吐き出した。
「ふふっ、あはははっ! もう、ごめんなさい麻美! 冗談よ、ほんの冗談!」
貴子さんの顔から警戒の色が完全に消え去り、心からの安堵と熱を帯びた笑顔が弾けた。
(勝った! 勝ったぞ!! 完璧に欺き切った!!)
「もう〜! 急に怖い顔して変なこと言うからびっくりしたじゃない〜!」
俺が麻美のトーンでプンプンと怒ってみせると、貴子さんは愛おしくてたまらないというように俺の体を力強く抱きしめてきた。

01ed5b4c No.4561

「あの……貴子さん、実は——」
ネタ晴らしをしようと口を開かけた、まさにその瞬間だった。
俺の言葉は、重ねられた貴子さんの情熱的な唇によってあっけなく塞がれた。
「んっ!? ふあ……っ!?」
「だーめ。言い訳なんて聞かないわよ、麻美。今日は覚悟しなさい?」
「んぐ……っ、ち、ちょっと待っ……んぁっ!」
貴子さんの滑らかな指先が、シースルーのショーツの隙間から迷いなく滑り込んでくる。
あまりにも手慣れた、そして的確すぎる愛撫。
(待て待て待て! 理論上、俺の勝利はもう100%確定したんだぞ!? ここで『実は俺、なりすまし屋ですよー!』ってネタ晴らしして、ドッキリ大成功で200万円を確定させるはずだっただろ俺はーーーっ!?)
心の中で叫ぶキヨヒコの理性。
……しかし、完全にコピーされた麻美さんの身体は、恐ろしいほど素直だった。
長年寄り添ってきた恋人だからこそ知る麻美さんの「一番敏感なポイント」を、貴子さんは容赦なく指先で攻め立ててくる。
熱い吐息が耳元をくすぐるたびに、甘い痺れが背筋を駆け上がり、膝の力が抜け落ちていく。
「あ……っ、貴子……っ! ホントに、ホントに一回話を聞いてっ!」
「あら、何をそんなに焦ってるの?そんな可愛い麻美、もっといじめたくなっちゃうじゃない」
「ちがっ……そうじゃなくて……あっ、んあぁっ!?」
「ほら、身体はこんなに正直よ? 呼吸が乱れてるわ……麻美、好きよ……っ」
「んぁ……っ、ダメ……っ、そこっ……あぁっ!」
貴子さんの熱量が凄まじすぎる!
大人女子の熟した色気と、溢れ出すような愛欲の猛攻。
ネタ晴らしをする隙など微塵も与えられず、俺——いや、麻美さんの身体はベッドの上に押し倒され、パステルピンクの勝負下着はあっという間に肌を滑り落ちていった。
「ねえ麻美……今日、なんだかいつもより愛おしいわ……ずっとこうしていたかったの……」
「あ……っ! 貴子……っ! ああぁぁぁーーーっ!?」
抗う術などなかった。
波のように押し寄せる快感の濁流に呑み込まれ、俺は麻美さんとしての絶叫をあげながら、シーツを固く握りしめてイかされてしまったのだった。

01ed5b4c No.4562


「はぁ……はぁ……っ……」
静まり返った寝室。
乱れたシーツの上で、二人の荒い吐息だけが重なり合っていた。
部屋には甘い熱気と、二人の肌から飛び散った汗の香りが充満している。
満足げな笑みを浮かべた貴子さんが、俺の濡れた髪を愛おしそうになで下ろしてきた。
「ふふ……凄かったわね、麻美。やっぱり、私にはあなたじゃなきゃダメみたい」

「……はぁ……はぁ……っ」
(やっちまった。完全にやっちまった! なりすまし屋としてのプライドも忘れて、普通に最後まで抱かれちゃったよ俺……!)
ぐったりとシーツに沈み込みながら、俺は自分の不甲斐なさに心の中で顔を覆った。
体は麻美さんの感触でぽかぽかと温かく、脳みそは完全に快感でトロけている。
貴子さんは俺の肩に頬を寄せ、うっとりと目を細めながらピロートークを続けた。
「ねえ、覚えてる? さっき私、あなたに『なりすまし屋さん』なんてカマをかけちゃったでしょ? 本当にバカなことしちゃったわ。あんな得体の知れない業者に、あなたの代わりなんて務まるわけがないのにね」
「……」
「あなた以外の女性なんて、あたし、抱く気にもなれないわ。やっぱり本物の麻美は最高よ。あの『なりすまし屋』なんて小娘、あなたの足元にも及ばないわね」
くすくすと楽しそうに笑う貴子さん。
……よし。今だ。
これ以上遅れたら、俺のなりすまし屋としての尊厳が完全に崩壊する!
俺は深く、深く溜め息をついた。
麻美さんの甘い声のまま、ゆっくりと体を起こす。
「……ねえ、貴子さん」
「ん? どうしたの、麻美? まだ足りないかしら?」
「さっきの『なりすまし屋』についての評価……撤回してもらってもいいですか?」
俺は声帯の響きを、滑らかに、そして劇的に切り替えた。
麻美さんの可憐で甘いトーンから——先ほど彼女のタワマンにやってきた【27歳・クール系美人秘書】の洗練された声へ。
「——なにしろ、私はあなたのご期待に100%以上応えて見せたのですから」

01ed5b4c No.4563

「……え?」
貴子さんの顔から、一瞬で安らぎの笑顔が吹き飛んだ。
「嘘……なに、その声? 麻美……?」
貴子さんの目の前で、俺はゆっくりと能力を解き解かしていった。
麻美さんの艶やかなロングヘアがしゅるしゅると変化し、背が伸び、豊満だった胸元がクールな秘書のシルエットへと戻っていく。
そして最後に、首筋のオーガニックシャンプーの香りすら、スッと消し去ってみせた。
ベッドの上に座っているのは、もはや麻美さんではない。
最初に貴子さんの前に現れた、あの凛とした美人秘書姿の「なりすまし屋」だ。
「あ……あ……あ……っ!?」
貴子さんは信じられないものを見る目で目を見開き、ガタガタと震えながらシーツを胸元まで引き上げて後ずさった。
「あ、あなたが……『なりすまし屋』!? 嘘でしょ!? じゃあ、さっきの会話も……お風呂も下着も……そして、今私に抱かれてたのも……全部!?」
「ええ。貴子さんが仕掛けたカマかけも、シャンプーの匂いチェックも、最後の『なりすまし屋さん』という極限ブラフも……すべて完璧にクリアさせていただきました」

俺は秘書姿のまま、ベッドの上で脚を組み、優雅に微笑んでみせた。
「いかがでしたか? 貴子さん。『私以外の誰かに変身して、私を騙してみせなさい』という試験……私の勝ちでよろしいでしょうか?」
貴子さんは開いた口が塞がらない様子で、しばらく呆然と俺を見つめていたが——やがて、はぁ……と大きく脱力するようにシーツへ崩れ落ちた。
「……参ったわ……完全にあたしの負けよ……」
「ふふ、ご理解いただけて光栄です」
「ちょっと信じられないわ……あたし、本物の麻美だと思って……あんなことまで……あんなに激しく!」
顔を耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆う貴子さん。
その様子は、先ほどまで余裕たっぷりだった港区のセレブマダムとは打って変わって、まるで純情な少女のように可愛らしかった。
「途中で『実はなりすまし屋です』ってネタ晴らししようとしたんですけどね。貴子さんの熱量が凄まじすぎて、言い出せなくなっちゃったんですよ」
「ううっ……言わないで恥ずかしい……! 穴があったら入りたいわ……!」
ジタバタとベッドの上で悶絶する貴子さんに、俺は頼もしいプロの笑みを向けた。
「安心してください、貴子さん。約束通り、成功報酬は倍の200万円でお願いいたしますね。さあ、これで準備は万全です。シルバーウィークの3日間、あなたになりすまして、旦那様を完璧に欺いてみせますよ」
「ええ、よろしく頼むわ……。あなたなら、完璧にやってくれそうね……」
悔しそうに、けれどどこか嬉しそうに頷く貴子さん。
こうして、報酬200万円をかけた前夜祭の試験は、なりすまし屋キヨヒコの完全勝利で幕を閉じたのだった。
——さあ、次はいよいよ本番。旦那との怪しい夜が待つ、波乱の3日間が始まる!

01ed5b4c No.4580

ルバーウィークを翌日に控えた、とある午後のひととき。
港区の喧騒から少し離れた、静かなクラシック音楽が流れる老舗の高級喫茶店。
重厚な革張りのソファー席で、俺と貴子さんは向かい合って座っていた。
今日の俺は、最初のアウトレットモールでも活躍した『文学部の清楚系美人女子大生』の姿だ。
落ち着いた店内の雰囲気にもすっかり馴染み、通りかかるウェーターが思わずチラチラと視線を送ってくるのを感じる。
目の前でダージリンティーを優雅に味わう貴子さんは、前回の「試験」での大失態(麻美だと思って散々抱きついてしまった件)の照れくささがまだ少し残っているのか、ときおり頬を微かに赤らめながらカップを置いて言った。
「……ええと、なりすまし屋さん。明日の本番に向けて、一応『形式上の打ち合わせ』をしておきましょうか」
「ええ、お願いします。まあ、キスをさせてもらえれば、貴子さんの日常の記憶も、旦那様の癖も、暗証番号も全部頭に入るので、理屈の上では打ち合わせなんて必要ないんですけどね」
「もうっ……! その言い方!」
貴子さんは赤くなった耳を隠すようにボブヘアを揺らし、コホンと咳払いを一つ挟んで真顔に戻った。
「とにかく、プロの仕事として念押しをしておきたいの。明日、私がマンションを出てあなたと交代した後は、普段使っている私のスマートフォンも、ブランドの財布も、クレジットカードや身分証も、全部そのまま部屋に置いて渡すわ」
「おお、それは助かります。本物のアイテムがあれば、なりすましの精度はさらに上がりますから」
「言っておくけれど、そのスマホやカードで『変なこと』に使わないでちょうだいね? 変なサイトで高額な買い物をしたり、勝手に私のSNSにへんてこな投稿をしたりしたら、絶対に許さないわよ!」
「失礼な! こう見えてプロのなりすまし屋ですよ。依頼人のプライベートを悪用するような不真面目な真似は一切しません。そこは100%安心してください」
「ふふ、まああの凄まじい試験をクリアしたあなたなら、信用できるかしら」
満足そうに頷いた貴子さんは、続いて一番の懸念事項である「旦那様」の扱いについて切り出してきた。

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「それから、うちの夫のことだけど……基本的には適当にいいようにあしらっておけばいいわ。あ人は仕事のことばかり考えているから、家のことにそこまで深い関心はないの」
「了解です。基本は冷たすぎず近すぎず、適度な距離感でいなしておきます」

「ええ。あとね……夜の夫婦生活の誘いがあったら、迷わず断ってちょうだい。『ちょっと頭痛がするの』とか『今日は体調が優れないの』って言っておけば、あの人も無理強いはしてこないはずだから」
「助かります……。さすがに、旦那様と夜の営みをするのは精神的なハードルが天を突くレベルですからね」
「ただ……」と、貴子さんは少し困ったような、苦笑いを浮かべた。
「もし昼間に『久しぶりに買い物でも行くか』なんて誘われたら、それは付き合ってあげてほしいの。連休中に夫を完全に放置すると、後で『せっかくの休みなのに冷たい』って不機嫌になられて、後々面倒なことになるから」
「なるほど。ショッピングのお付き合い程度ならお安い御用です。マダム貴子として優雅にお供させていただきますよ」
「頼もしいわね。……さて、明日の具体的な手順だけど」
貴子さんは手帳を開き、指先で日付をトントンと叩いた。
「明日の朝、夫は仕事の用件で午前10時頃には家を出るはずよ。だから、あ人が出かけた直後の10時半頃に、うちのマンションに来てちょうだい」
「10時半ですね。了解です」
「でね……ここが重要なのだけれど」
貴子さんは身を乗り出し、悪戯っぽい笑みを浮かべて俺の目を覗き込んできた。
「マンションに来る時の姿だけど……あの『麻美の姿』で来てちょうだい」
「えっ? 麻美さんの姿で、ですか?」
「そうよ。あの試験の時みたいに、麻美の姿でうちの玄関をくぐってほしいの。……ほら、私と麻美が二人で旅行に出かけるフリをして、マンションの防犯カメラやコンシェルジュの目を欺くためにも、それが一番都合が良いでしょ?」
(なるほど! 確かに『麻美さんが貴子さんの家に立ち寄って、二人で旅行に出かけた』というストーリーを作っておけば、近所やコンシェルジュへの言い訳も完璧だ!)
「分かりました。明日の朝は、完璧な麻美さんの姿でお伺いします」
「ええ。部屋で最後の交代(バトンタッチ)をして、私はあなたと入れ替わりで友人たちの待つ温泉旅行へ出発する。そこで本格的な役割交代と行きましょう」
「了解です。完璧な3日間のアリバイ、お任せください」
打ち合わせが終わると、貴子さんは伝票を手に取って優雅に立ち上がった。

「じゃあ、今日はこれで解散にしましょう。明日の10時半、待っているわね……なりすまし屋さん」
「はい。良い旅のスタートになるよう、明日も完璧に演じ切ってみせます」
貴子さんは満足そうに微笑むと、ハイヒールの音を静かに響かせて喫茶店を後にした。
残された俺は、冷めてきた紅茶を一口飲み干し、背もたれに深く体重を預けた。
(よし……! 打ち合わせも完了、手筈はすべて整った!)
明日の朝、麻美さんの姿で貴子さんのタワマンへ乗り込み、粘膜接触(キス)で最新の記憶をアップデート。
そして貴子さんが温泉旅行へ旅立った後は、俺が『港区のセレブマダム・貴子』となり代わり、3日間を過ごす。
旦那あしらい、優雅なタワマン暮らし、そしてショッピング。
怒涛のシルバーウィーク3日間がいよいよ明日、幕を開ける!
俺は心の中でニヤリと不敵な笑みを浮かべ、明日の決戦に向けて喫茶店を後にしたのだった。

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貴子さん

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文学部の清楚系美人女子大生

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朝8時、目覚ましの電子音がアパートの部屋に鳴り響いた。
「ふぁ……よし、ついに当日だな」
パチッと目を覚まし、ベッドから起き上がる。
今日から始まる、怒涛のシルバーウィーク3日間の身代わり大作戦。
成功報酬200万円がかかった本番の朝だ。
まずはテンションを高め、身体を清めるべくバスルームへ直行する。
勢いよくシャワーを浴びながら、昨日ネットで念入りにリサーチして買っておいたシャンプーを手にとった。
サロン専売の高級品とまではいかないが、ドラッグストアで買える中ではかなり評判が良く、華やかでそれなりに上品な良い香りがするものだ。
(麻美さんの姿に変身した時、髪からふんわり女子の香りが漂うようにね。
匂い対策はプロの基本だからな!)
しっかりと髪と身体を洗い流し、お湯で温まったところで一度深呼吸。
全身の細胞に意識を集中させ、脳内のデータベースから『麻美さん』のパーツを呼び出す。
(完全擬態——発動!)
しゅるしゅるしゅるっ……!
肌が滑らかに引き締まり、背が伸び、胸元には豊満でしなやかなふくらみが形成されていく。
艶やかなロングヘアが背中に垂れ下がり、鏡の中に現れたのは、先日の試験でも貴子さんを翻弄した妖艶な美女・麻美さんの姿だ。
「よし……体型、完璧」
麻美さんの艶やかな声で呟きながら、脱衣所へ戻る。
ここからが、前回の買い物で大進化を遂げた俺の真骨頂——『自前の下着&アパレルストック』の出番だ。
ベッドの上に並べたのは、麻美さんのナイスプロポーションと大人の色気に合わせてセレクトした、繊細な黒のレースブラとショーツのセット。
滑らかなシルクのような肌触りの生地を、麻美さんの身体へと滑り込ませていく。
(うおっ……! 黒レースの透け感とフィット感が凄まじいな……)
ブラのホックを背中で留め、カップに胸を収める。
続いて、すべすべとした肌触りのストッキングを爪を立てないように丁寧に繰り出し、つま先から太ももまで引き上げていく。
吸い付くようなストッキングの圧迫感が、脚のラインをさらに美しく際立たせる。
仕上げに選んだのは、体のラインが綺麗に出る、シックでオシャレな深緑色のVネックワンピースだ。
鏡の前に立ち、くるりと一回りしてみる。
そこに立っているのは、どこからどう見ても港区のタワマンに足を運んでも一切の引けを取らない、洗練された大人の美女そのものだった。

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その時だった。
(……っ!?)
ぞくっ、と背筋に甘い痺れが走った。
鏡に映る自分の妖艶な姿、体にぴったりとフィットした繊細な黒レース下着の感触、そしてストッキング越しに伝わる脚の摩擦。
麻美さんの敏感な身体の感覚と、元・野郎としての「エロいお姉さんになっている」という変身の背徳感が交差して、下腹部の奥がキュッと熱くうずいてきたのだ。
(や、やばい。ちょっと興奮してきたぞ!? あそこが甘くうずいてやがる!)
体の内側から湧き上がるような独特の熱気。
麻美さんの身体だからこそ感じる、女体特有のセンシティブな反応に、思わず息が「はぁ……」と乱れそうになる。
(くっ! このまま部屋で自分(麻美さん)の身体をいじくって楽しみたい! というか、この体つき、マジで魅惑的すぎるだろ!)
本能が「もっとこの姿を楽しめ」と悪魔の囁きをかけてくる。
だが、俺はギュッと拳を握りしめ、首を大きく振った。
(いかんいかんいかん!! 振り切れキヨヒコ!! 今の俺はプロのなりすまし屋だぞ! 目的は楽しむことじゃなくて、貴子さんのタワマンに行って200万円を確実にゲットすることだ!!)
湧き上がる甘い欲望を気合で抑え込み、鏡の前でパンッと頬を叩いた。
「ふぅ……よし! 落ち着いた!」
麻美さんの上品なバッグを肩にかけ、部屋の鍵を取る。
アパートのドアを開けると、澄み渡った秋の朝風が火照った頬を心地よく撫でていった。
時間は午前9時過ぎ。
旦那様が家を出る午前10時、そして貴子さんと待ち合わせている10時半に向けて、俺はハイヒールの音を軽やかに響かせながらアパートを後にしたのだった。

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アパートを出て駅へと向かう道すがら、俺はすぐに異変——いや、「快感」に気づいた。
カツン、カツン、とハイヒールの高らかな音を響かせて歩くたび、すれ違う男たちの視線が一斉に俺に突き刺さるのだ。
信号待ちをしているスーツ姿のサラリーマン。
犬の散歩をしているおじさん。
自転車で通り過ぎようとした若い男。
誰もが思わず足を止め、俺——いや、麻美さんのしなやかなスタイル、深緑のワンピースから伸びるストッキング包みの脚、そして風に揺れる艶やかな髪に目を奪われている。
中には振り返ってまでじっと見てくる奴までいる始末だ。
(くっ……! 見てる見てる! めっちゃ男たちの視線を感じるぞ……!)
男だった頃の自分なら絶対に経験できなかった、圧倒的な視線の集中。
最初は少し背筋がムズムズとしたが、次の瞬間、体の内側からゾクゾクとした甘い優越感が込み上げてきた。
(ふふん、どうだ? 見とれてんじゃねぇよ。お前らが束になっても手が出せないレベルの『イイ女』が、今ここを通ってるんだからな!)
あごを少し上げ、麻美さんらしい余裕のある上品な微笑みを浮かべて悠然と歩く。
男たちの視線を全身で浴びながら歩く快感。これはちょっと、病みつきになりそうな危険な刺激だ。
興奮で下腹部にほのかな熱を感じつつ、駅前のロータリーに到着する。
すっと手を挙げると、目の前で黒塗りのタクシーが滑らかに停車した。
「どちらまで行かれますか?」
ドライバーがバックミラー越しに、少し緊張した面持ちで尋ねてくる。
「とりあえず港区の方に、お願いします」
麻美さんの艶やかで澄んだ声を響かせると、運転手は「かしこまりました!」と姿勢を正してアクセルを踏み込んだ。
後部座席の柔らかいシートに深々と腰掛け、流れる景色を眺める。
車内には、朝仕込んできた上品なシャンプーの香りと、俺が纏う麻美さんの大人の香水の匂いがふんわりと漂っている。
(よし、完璧だ。時間は10時15分……旦那様はもう仕事に出かけた頃合いだな)
首都高を抜け、車はあっという間に港区の超高層タワマンのロータリーへと滑り込んだ。

3f07efed No.4613

運賃を払い、ハイヒールを鳴らして重厚なガラス張りのエントランスへと足を踏み入れる。
ホテルのフロントのようなラグジュアリーなエントランスホール。
そこには、ビシッと制服を着こなした男性コンシェルジュが控えていた。
俺は麻美さんになりきり、優雅な足取りでフロントへと向かった。
「こんにちは」
麻美さんの可憐なトーンで声をかけると、コンシェルジュはハッとしたように姿勢を正し、恭しく一礼した。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「45階の……貴子さんのところへ伺いたいのですが」
「あぁ、貴子様のお客様ですね! お話しは伺っております。『ご友人の麻美様が来られたら、そのままお通しするように』とのお言づけでございます」
(よしっ! 貴子さん、ちゃんとフロントに手配しておいてくれたか!)
これで「麻美が貴子の部屋を訪ねてきた」という完璧な記録と印象が、コンシェルジュと防犯カメラに残ったことになる。アリバイ工作の第一段階は100点満点でクリアだ。
「ありがとうございます。それではお邪魔させていただきますね」
俺はコンシェルジュに華やかな微笑みを残すと、セキュリティカードを受け取り、プライベートエレベーター乗り場へと向かった。
静かに閉まるエレベーターのドア。
上階へとスルスル上がり始めるかごの中で、俺は鏡に映る麻美さんの姿をチェックし、深く息を吐いた。
(さあ……旦那様は不在、舞台は整った。これから貴子さんと本番前の『最終交代』だ!)

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チーン、と静かな電子音と共に、プライベートエレベーターのドアが滑らかに開いた。
目の前に広がるのは、白を基調とした、目も眩むようなラグジュアリーなエントランス。貴子さんの記憶にある通りの、港区最高峰のタワマン上層階、ワンフロア独占のプライベート空間だ。
「失礼します……」
俺は麻美さんの妖艶な声を響かせ、ハイヒールの音を静かに立ててリビングへと足を踏み入れた。
リビングの中心、眼下に広がる大パノラマの東京の景色を背にして、貴子さんは立っていた。
彼女はすでに、動きやすさと洗練さを兼ね備えたスタイリッシュなトラベルウェアに身を包んでいる。
足元には、ブランドの高級旅行鞄が二つ、完璧に荷造りを終えた状態で鎮座していた。
「遅かったじゃない、麻美。待ちくたびれたわよ」
貴子さんはフッと唇を綻ばせたが、その瞳には友人との秘密の旅行への高揚感と、俺という『なりすまし屋』に全てを託すことへの、微かな緊張が入り混じっていた。
「ごめんなさい、貴子。コンシェルジュのお兄さんと少しお話ししてて」
俺は麻美さんの仕草で少し首を傾げ、悪戯っぽく笑って見せた。
これでまた一つ、コンシェルジュの記憶に『麻美が貴子を訪ねた』という確実な事実が刻まれたわけだ。
貴子さんは溜め息を一つ吐くと、リビングのガラステーブルへと視線を向けた。
「いいわ、時間もないし手短に行くわよ。……そこに、私が普段使っているものは一通り置いておいたわ」
テーブルの上には、最新型のiPhone Pro、黒革のブランド財布、クレジットカード数枚(アメックス・プラチナが輝いている)、運転免許証、そしてマンションのセキュリティカードが並べられていた。
「これらは全て貴方に託すわ。……この間も言ったけれど、変なことに使ったら絶対に許さないからね? クレジットカードの明細も、スマホの通信履歴も、後で全部チェックするんだから」
貴子さんの厳しい視線。
だが、プロのなりすまし屋としての俺に迷いはない。
「ええ、了解しました。貴子さんの生活を完璧に維持するためだけに、適切に使用させていただきます」
麻美さんの声で、けれど毅然としたトーンで返事をする。

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「ふふ、頼もしいわね。あ人は10時に家を出たわ。『連休中は仕事で忙しいから、あまり構ってやれないかもしれない』って、申し訳なさそうに言っていたけれど……ふふ、あ人らしいわ」
旦那様は不在。
完璧な状況だ。
貴子さんは旅行鞄を手に取ると、スッと俺の方へ近づいてきた。
部屋には貴子さんが纏う、高級感のあるシャネルの香水の匂いがふんわりと漂う。
「さあ……これで最後のバトンタッチね。……なりすまし屋さん」
貴子さんが目を閉じ、顔を寄せてくる。
(完全擬態の最終アップデート。粘膜接触により、貴子さんの最新の記憶、旦那様の今朝の様子、そしてこの部屋の最新の状況をコピーする。)
俺は麻美さんの姿のまま、貴子さんの美しい顔を引き寄せ、その唇を塞いだ。
「ん……っ……」
濃厚で、滑らかな粘膜接触。
昨日の試験の時のような探り合いはない。
あるのは、互いの目的を達成するための、プロ同士の確実な『データ同期』だ。
貴子さんの唾液が絡み合い、脳内に一気にシナプスが走る。
ズバババッ! と脳内に流れ込む、貴子さんの最新の記憶。
旦那様との今朝の冷ややかな会話、友人たちとの熱海の温泉旅館の予約詳細、隠し口座の暗証番号、そしてこの部屋の防犯システムの最新コードに至るまで、全てが完璧に頭の中にインストールされた。
(完全擬態——アップデート完了!)
唇を離すと、貴子さんは少し息を荒らげ、頬をほの紅く染めて俺(麻美)を見つめていた。
「んっ……はぁ……。……凄いわね。本物の麻美とキスしているみたいだわ」
「ええ。準備は万全です、貴子さん」
俺は麻美さんの姿のまま、不敵な笑みを浮かべた。
貴子さんの最新の記憶と、テーブルの上に並べられた本物のアイテム。
これで俺は、どこからどう見ても、仕草から声のトーン、細かな記憶に至るまで、100%『港区のセレブマダム・貴子』そのものだ。
「じゃあ……行ってくるわ。3日間、よろしく頼むわね」
「ええ。良い旅を。……貴子さん」
貴子さんは旅行鞄を手に取ると、一度だけ俺を振り返り、悪戯っぽく、けれど信頼を込めたウインクを飛ばすと、ハイヒールの音を響かせてエレベーターへと向かった。
チーン、という電子音と共にドアが閉まり、貴子さんは友人たちの待つ愛と悦楽の温泉旅行へ旅立っていった。
静まり返ったリビングに残されたのは、俺(麻美の姿だが中身はキヨヒコ)ただ一人。
俺はテーブルの上のスマートフォンと財布を手に取ると、スッと意識を細胞全体に行き渡らせた。
(さあ……役割交代だ)
(完全擬態——発動!)
しゅるしゅると骨格が縮み、髪が上品なボブヘアへと変化していく。
胸元のふくらみが形成され、全身のパーツが『港区のセレブマダム・貴子』そのものへと組み替えられていく。
鏡を見ると、そこには先ほどまで話をしていた、美しく洗練されたマダム貴子さんが立っていた。
「ふふ……さて。なりすまし屋キヨヒコ。港区マダムとしての、波乱の3日間をスタートさせましょうか」
貴子さんの艶やかな声で呟きながら、俺はソファに深く腰掛け、彼女のスマートフォンを優雅に操作し始めた。
旦那様をあしらい、タワマン生活、そしてショッピング。
成功報酬200万円をかけた、究極のなりすましプレイが今、幕を開けたのだ!

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「さて、と」
リビングに一人残された俺——いや、今の俺は完璧な港区マダム、本田貴子だ。
貴子さんの艶やかな声で呟きながら、俺はソファから立ち上がった。
温泉旅行へ旅立った本物の貴子さん、仕事で不在の旦那様。
この広大なタワーマンションの最上階は、今や俺だけの完全なプライベート空間だ。
(成功報酬200万円の任務は、明日旦那様が帰ってきてからが本番。その前に、まずはこの『本田貴子』という女性を、身も心も——いや、身も『衣』も完全にモノにする必要があるな!)
俺は貴子さんの記憶を頼りに、リビングから寝室へと続く廊下を歩いた。
寝室の奥にある、重厚な一枚板のドア。
それを開けると、そこは寝室と見紛うばかりの広さを持つ、ウォークインクローゼットだった。
「……うわぁ」
思わず、貴子さんの声で感嘆の吐息が漏れた。
そこは、まさにファッションの聖地。
壁一面に整然と並べられた、シャネル、エルメス、グッチといったハイブランドのバッグや靴。
カシミアのコートからシルクのドレスまで、季節ごとに完璧に分類された衣類の数々。
(港区セレブのクローゼット、マジでハンパねぇ! ここにあるもの全部売ったら、それだけで一生遊んで暮らせるんじゃねぇか?)
元・男としてのキヨヒコの魂が、その圧倒的な富の光景に震える。
だが、俺の目的はバッグやドレスではない。
俺はクローゼットのさらに奥、アンダーウェア専用のエリアへと向かった。
そこには、貴子さんの記憶にあった通り、芸術品のように整理された下着のコレクションが、専用の棚や引き出しにびっしりと並べられていた。

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「よりどりみどり、とはこのことね……」
俺は引き出しを一つずつ開け、その中身を確かめた。
そこには、日常使いと思われる、ワコールやトリンプの上品でシンプルなレースのブラ&ショーツセットから、肌触り抜群のシルク製、そして……
(お、おおっ。これは……!)
貴子さんの記憶が一瞬、鮮明に蘇る。
それは、麻美さんとの密会用、あるいは旦那様との『特別な夜』用と思しき、きわどい下着の数々だった。
海外製の高級ランジェリー、ラ・ペルラやオーバドゥ。
繊細すぎるレース、透け感のあるシルク、大胆なカットのTバック、そしてガーターベルト。
(貴子さん、意外と大胆な趣味も持ってるのね。麻美さんとの記憶にあった、あの勝負下着なんて、まだ可愛い方じゃないか!)

貴子さんの滑らかな指先で、透けるような黒レースのブラジャーを持ち上げる。そのあまりの軽さと、妖艶なデザインに、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
(旦那様も貴子さんもいない、この完全な密室。成功報酬200万円の任務の完璧を期すため、そして……元・男としての好奇心を満足させるため!)
俺はクローゼットの中央にある、大きな姿見の前へ立った。
「ふふ、誰も見ていないもの。……まずは、この『コレクション』を、この体(貴子さんの体)で存分に味わわせてもらいましょうか」
貴子さんの妖艶な笑みを浮かべ、俺は深緑色のワンピースのファスナーを静かに下ろした。
完全擬態——着せ替えショー、スタート!

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アパートを出る時に身につけてきた、麻美さんのスタイルに合わせた黒レースの下着を脱ぎ捨てる。
貴子さんの滑らかでしなやかな体つきが鏡の中に現れた。
まずは、コレクションの中から、旦那様からのプレゼントと思われる、ネイビーブルーの上品なワコール製ブラ&ショーツをセレクト。
(……っ! 肌触りが、アパートで履いてきたものとは段違いだ! シルクのような滑らかさと、吸い付くようなフィット感……!)
ブラのホックを背中で留め、カップに胸を収める。
鏡の中の貴子さんが、上品に、そして美しく形整えられていく。
「……素敵。でも、これじゃあ『普通』すぎるわね」
次に俺が手に取ったのは、黒のレース下着だ。
麻美さんの記憶にある感触を思い出しながら、ブラ&ショーツを身につける。
「ん……っ……」
鏡の中の貴子さんが、一瞬にして可憐で、そして誘うような妖艶さを纏った。
シースルーのショーツから覗く肌の質感、レースが胸元を飾る様。
昨日の試験の、あの熱い夜が脳裏をよぎる。
(やばい。この姿、マジで魅惑的すぎる。自分で自分(貴子さん)に惚れちゃいそうだわ……!)
興奮で、貴子さんの身体の下腹部が甘くうずき始める。
だが、俺の好奇心はまだ止まらない。
俺は棚の奥から、さらにきわどい、黒いシルクのベビードールと、それに合わせるTバック、そしてガーターベルトを取り出した。
((元・男としての全力が、今ここに!!))
ストッキングを履き替え、ガーターベルトを太ももに装着。
Tバックを履き、その上から黒いシルクのベビードールを纏う。
鏡の中に現れたのは——
港区の洗練されたマダムなどではない。
そこには、夜の悦楽を一身に集めたような、妖艶で、そして退廃的な魅力を持った『魔性の女』が立っていた。

ベビードールのシルクが肌を滑り、ガーターベルトが太ももを締め付ける。Tバックの存在感が、背徳感をさらに煽る。

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「……あ……っ……」
あまりの背徳感と、貴子さんの身体が感じる濃厚な快感に、俺は姿見の前でへたり込みそうになった。
鏡の中の貴子さんが、荒い吐息を漏らし、瞳を潤ませている。
((ぐわあああ! これ、マジでやばい! 貴子さんの身体、感度良すぎだろ! これ以上この姿でいたら、旦那様が帰ってくる前に自分で自分をいじくり倒して廃人になっちまう!!))
理性が、湧き上がる甘い欲望を必死に抑え込む。
俺は姿見の前で、貴子さんの艶やかな仕草で髪をかき上げ、鏡の中の自分(魔性の女)にウインクを一発飛ばした。
「……ふふ、存分に楽しませてもらったわ。貴子さんのコレクション、最高ね」
貴子さんの声で、けれどキヨヒコの満足感を込めて呟く。
数々のきわどい下着を身につけ、鏡の前でポーズを取り、貴子さんの身体が感じる快感と背徳感を存分に味わった。
元・男としての好奇心は、今、完全に満たされた。
(よし! これで『本田貴子』という女性の、表の顔も裏の顔も、そして衣類の感触まで、全て完璧にモノにした!)
俺は名残惜しさを振り切り、黒いシルクのベビードールとガーターベルトを脱ぎ捨てた。
そして、棚の中から、日常使いの上品なベージュのシースルーブラ&ショーツセットをセレクト。
(これなら、旦那様が帰ってきても、ショッピングに行っても、一切の不審感はない。……プロのなりすまし屋としての、完璧な選択だ)
ベージュの下着を身につけ、その上から、貴子さんのクローゼットにあった、上品な白のシルクブラウスと、ネイビーのタイトスカートをセレクト。
鏡の前に立ち、くるりと一回り。
そこには、どこからどう見ても、港区のセレブマダム・本田貴子が立っていた。
「さあ、着せ替えショーは終わり。200万円の任務遂行に向けた、完璧な準備が整ったわ」
貴子さんの艶やかな声で、凛として呟く。
俺はクローゼットを後にし、リビングへと戻った。
ソファに深く腰掛け、貴子さんのスマートフォンを優雅に手に取る。
成功報酬200万円。
旦那あしらい、タワマン生活、そしてショッピング。
なりすまし屋キヨヒコ、港区マダムとしての、波乱の3日間がいよいよ本格的にスタートする!

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ソファに深く腰掛け、貴子さんのスマートフォンを弄りながら、俺は脳内の『貴子データベース』をじっくりと検索してみた。
(さて……セレブマダムの本田貴子さんは、平日のこの昼下がりに普段何をして過ごしているんだ……?)
優雅にフラワーレシービング? 友人とホテルでアフタヌーンティー? それともジムでピラティス?
……なんておしゃれな日常を想像していたのだが。
(えーっと。麻美さんとホテルで密会……麻美さんを自宅に連れ込んで密会……ネットで新しい大人のおもちゃを吟味……自室で麻美さんとの動画を見て一人で悶々……)
「……って、エッチなことしかしてねぇじゃん!!」
思わず貴子さんの艶やかな声でセルフツッコミを入れてしまった。
記憶をどれだけ掘り起こしても、出てくるのは昼間から色情に狂った百合の宴か、麻美さんとのエロい妄想ばかり。家事らしい家事の記憶はほぼ皆無である。
(まじかよマダム……旦那さん、放置されすぎだろ……)
200万円もらう身としては、さすがにこの放置プレイは忍びない。
今回はあくまで「怪しまれずに3日間をやり過ごす」のがミッションだ。
(よし……普段の貴子さんは絶対にやらないだろうけど、たまには『夫のために心を込めて手料理を作る健気な妻』を演出してやるか! 旦那様を胃袋から胃袋(?)まで掴んでおけば、変な疑いも持たれないし一石二鳥だろ!)

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そうと決まれば、まずは食材の調達だ。
貴子さんの記憶を辿り、近所のスーパーの位置を検索する。
(普通ならちょっとそこまでの買い物だし、自転車でサクッと……って、貴子さんの記憶に『自転車』なんて乗り物、存在すらしねぇ!!)
そう、さすがは港区のガチセレブ。
徒歩5分程度の高級スーパーへ向かうのすら、彼女の日常では「タクシーを呼ぶ」の一択なのだ。
ママチャリで前カゴに長ネギを突っ込んで走るマダム貴子……うん、シュールすぎてあり得ない。
「ふふ、郷に入っては郷に従え、ね」
俺は貴子さんのiPhoneから、配車アプリでサクッと黒塗りの高級タクシーを手配した。
クローゼットから上品なハイブランドのハンドバッグを取り出し、中には貴子さんのアメックス・プラチナカードと現金を確認。
姿見の前で立ち姿をチェックする。
白のシルクブラウスにネイビーのタイトスカート、足元はエレガントなヒール。
完璧な「お買い物に出かける港区マダム」の完成だ。
エレベーターで1階に降りると、エントランスにはすでに手配したタクシーが滑り込んでいた。
コンシェルジュが恭しくドアを開けてくれる。

「貴子様、いってらっしゃいませ」
「ええ、少しお買い物に行ってくるわね」
優雅に一礼し、タクシーの後部座席へ。
目的地は、港区のセレブ御用達として有名な高級スーパーだ。
車窓を流れる港区の街並みを眺めながら、俺は貴子さんの記憶の中にある「旦那の好きな食べ物」を検索する。
(旦那様は……がっつりした肉料理が好きで、特に和牛のハンバーグやステーキに目がない、と。よし、今夜は最高級の黒毛和牛を使った特製ハンバーグと、高級赤ワインに合うフレンチ仕立てのディナーにしてやるか!)
タクシーはあっという間に高級スーパーの前に到着。
運転手にカードでスマートに支払いを済ませ、ハイヒールの音を響かせて店内へと足を踏み入れる。
そこに広がっていたのは、普通のスーパーとは一線を画す、まるでデパ地下のような絢爛豪華な食材のテーマパークだった——。

d0b01bd6 No.4717

「いらっしゃいませ」
店員たちの丁寧な出迎えを受けながら、俺は特製ハンバーグとディナーの材料を求めて店内を回る。
(いや〜、値段のラベルを一切見ずにカゴに突っ込めるの、マジで最高だな……!)
普段の大学生としての俺なら、100g数百円のお肉の前で「今日の特売は……」と眉間にシワを寄せているところだ。だが今の俺は港区セレブマダム。
個体識別番号付きの極上A5ランク黒毛和牛のひき肉とステーキ用部位、1束千円近くするオーガニックのハーブ、最高級の赤ワイン、そして色鮮やかな海外産の付け合わせ野菜。
カゴの中にためらいなくポンポンと放り込んでいき、買い物はわずか十数分でテキパキと完了。
レジに持っていくと、合計金額はあっさりと数万円を突破。
庶民感覚なら思わず二度見どころか三度見するような額だが、貴子さんのアメックス・プラチナカードを提示して、スマートに決済終了だ。
金銭感覚が狂いそうなほどの爽快感と開放感である。
高級食材の詰まったシックな紙袋を両手に持ち、再び配車アプリで呼んだ黒塗りのタクシーに乗り込む。
車内の革シートに深く腰掛け、ふぅと吐息をついたその時だった。
ポケッ……とバッグの中で貴子さんのiPhoneが上品な通知音を鳴らした。
画面を見ると、差出人は——【旦那様】。
メッセージを開くと、そこには短い文面が踊っていた。
『貴子、今日はお疲れ様。予定より仕事が早く片付きそうだから、19時前には家に帰れそうだ。できれば今夜は家で一緒に夕飯を食べたいんだが、何か準備してもらえるかい?』
(うおっ……! タイミング良すぎだろ!!)
俺は思わず心の中で膝を打った。
もし手料理の買い出しに行かず、部屋で呑気に過ごしていたら、急な帰宅の連絡に大パニックになるところだった。手料理作戦に舵を切っておいて本当に大正解だ。
画面を見つめながら、俺は貴子さんの記憶の中にある「夫への返信の癖」を呼び起こす。
絵文字は控えめ、上品で少し落ち着いたトーン。
『お仕事お疲れ様です。今日はちょうど貴方の好きなハンバーグを作ろうとお買い物を終えたところでした。19時には完璧にご用意しておきますね。お気をつけてお帰りください』
文字を打ち込み、送信ボタンをタップ。
すぐさま『本当かい!? それは嬉しいな。楽しみにしているよ』と、旦那様からの弾んだ返信が返ってきた。
(よしっ! 旦那様の胃袋(と機嫌)を掴む下準備は完璧だ!)
タクシーは夕暮れの港区を走り抜け、タワマンのロータリーへ。
両手に数万円分の極上食材を抱え、俺はマダム貴子としてのハイヒールを鳴らしながら、旦那様の待つ「夫婦の城」へと戻っていくのだった。

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タワーマンションの最上階へ戻り、最新のシステムキッチンに高級食材を並べた。
「よしっ……それじゃあ、なりすまし屋兼・シェフキヨヒコの腕の見せ所と行きますか!」
腕まくりをして、貴子さんのクローゼットにあったエレガントなエプロンを身につける。
男の一人暮らしで培った自炊スキルに、貴子さんの繊細な手つきと記憶を融合させ、調理を開始した。
A5ランク黒毛和牛の挽き肉に、じっくり狐色に炒めた玉ねぎとナツメグを効かせ、空気を抜きながら手際よく形を整えていく。
パンッ、パンッ、と肉種を叩くいい音がキッチンに響く。
付け合わせには、彩り豊かなパプリカやアスパラガスのアヒージョ風ソテーと、トリュフオイルを贅沢に垂らしたマッシュポテト。
特製のデミグラスソースがグツグツと深みのある香りを漂わせ始めると、LDK全体が高級レストランのような芳醇な匂いで満たされた。
(完璧だ! これ、自分で言うのもなんだけど店が開けるレベルじゃないか!?)
18時50分。
テーブルにキャンドルとワイングラスをセットし、準備が完璧に整ったその時——
カチャリ、と重厚な玄関の電子ロックが解除される音が響いた。
「ただいま、貴子」
スーツの上着を腕にかけ、少し疲れた様子で帰ってきたのは、貴子さんの旦那様——大手投資ファンドの役員を務める、40代後半の渋いイケメン実業家だった。
「お帰りなさいませ、貴方。お仕事お疲れ様でした」
俺は速やかに「完璧なセレブ妻・貴子」の笑みを張り出し、玄関まで出迎えて上着を受け取った。
「うわ……すごく良い匂いだね。本当に作ってくれていたのか」
旦那様は驚いたように目を丸くし、それから心底嬉しそうに表情を崩した。
リビングへと進み、綺麗にセッティングされたテーブルと美味しそうな料理を目にすると、さらに感心したように息を漏らす。
「すごいな……! まるでレストランじゃないか。最近、君は忙しそうにしていたから、こうして二人で家で食べるなんて久しぶりだな」

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(忙しそう(※レズ友の麻美さんと密会しまくり)だったからな! 旦那様、マジで健気で可哀想すぎるだろ……!)
胸の中で旦那様に同情しつつ、俺は優雅に椅子を引いて旦那様を促した。
「さあ、冷めないうちに召し上がってくださいな。今日は特別に良いお肉が入ったんですの」
「ありがとう、いただきます」
旦那様がナイフとフォークを手に取り、肉汁が溢れ出すハンバーグを口に運ぶ。
一噛みした瞬間、彼の目がカッと見開かれた。
「う、うまい……! なんだこれは、今まで食べた君の手料理の中でも一番美味しいんじゃないか!?」

「まあ、お口に合って良かったですわ」
「本当に美味しいよ、貴子。仕事の疲れが一気に吹き飛ぶようだ」
パクパクと夢中でハンバーグを平らげていく旦那様。
手料理は大成功だ。
胃袋を完全に掴んだことで、旦那様の警戒心はゼロどころかプラスの好感度へと突き抜けている。
赤ワインを注ぎ合い、他愛もない仕事の話や世間話に花を咲かせる。
貴子さんの記憶があるおかげで、旦那様が話す業界の専門用語や人間関係にも完璧に相槌が打てる。
(よしよし、会話も弾んでるし、成り代わりは完璧だな……!)
そう余裕をぶっこいていた、食後のコーヒータイムでのことだった。
ワインが入って機嫌の良くなった旦那様が、ふと愛おしそうな目で俺(貴子)を見つめ、テーブル越しにそっと手を重ねてきたのだ。
「……ねえ、貴子」
「はい? なんでしょう、貴方」
「今日は本当に美味しい料理をありがとう。君の優しさが身に染みたよ。……なんだか今夜は、君がとても魅力的に見えるな」
(ん? 待て、この空気感はまさか……!?)
旦那様の目が、熱を帯びた「男の目」に変わっていく。
「久しぶりに……今夜はゆっくり、二人で過ごさないか?」
(キターーーーーーッ!!! 夜の誘い、ダイレクトアタック!!!)
心の中で警報が鳴り響く。

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男である俺が、いくら身体がマダム貴子だからといって、旦那様と夜の営み(本番)に突入するなど絶望的に不可能なミッションだ!
俺は貴子さんの記憶にあった「断り方の鉄則」と、今日の昼間の打ち合わせを瞬時に脳内で再生した。
(落ち着け自分! 貴子さんからは『体調不良を理由に上手く断れ』って言われてる! ここは女優・キヨヒコの真骨頂だ!)
俺は重ねられた旦那様の手を、優しく、けれどしっかりと包み返すように握り直すと、少し困ったような、儚げで魅力的な苦笑いを浮かべてみせた。
「ごめんなさい、貴方。そう言ってくださって、とっても嬉しいのだけれど……」
「……貴子?」
俺は片手をそっと自分の額に当て、胸元をかすかに押さえながら、消え入りそうな声で溜め息をついた。
「実は……今日、お買い物の途中から少し頭痛がしていて。張り切ってお料理を作ったのは良いのだけど、ちょっと熱っぽくて貧血気味なのよ……」
瞳をほんのり潤ませ、申し訳なさそうに上目遣いで旦那様を見つめる。

「せっかく貴方が帰ってきてくださったのに、こんな身体でごめんなさいね? 今夜は、お気持ちだけいただいて……静かに休ませていただいてもかしら?」
完璧な「体調不良のおねだり拒絶」。

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旦那様は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐにハッとしたようにハの字の眉を作って、俺の肩を優しく抱いた。
「ああっ、そうだったのか! それなのに、俺のために無理をして料理を作ってくれていたんだね……気付かなくてごめんよ、貴子」
「ううん……貴方が喜んでくださったから、それだけで十分よ」
「ああ、今夜はゆっくり休んでくれ。ベッドまで送るよ。明日は無理をせず、家で大人しくしているんだよ?」
(よっしゃあああああ! 回避大成功!! 旦那様、めちゃくちゃイイ人&チョロくて助かったーーー!!)
「ありがとう、貴方。本当にお優しいのね」
俺は旦那様に肩を抱かれながら、しなやかに寝室へと向かった。
旦那様は俺を優しくベッドに横たわらせると、額にそっと優しいキスをして、「おやすみ」と言って寝室を後にした。
ガチャリとドアが閉まり、足音が遠ざかる。
静まり返った豪華な寝室のベッドで、俺はふぅぅぅ……と深く長い息を吐き出した。
(ふぅぁぁぁぁ……! 緊張したぁぁぁ!!)
ベッドの上で手脚をバタバタと伸ばす。
手料理作戦は大成功、夜の危機も完璧に回避。
(初日の夜、完全クリア!! 200万円へのカウントダウンが着々と進んでるぞ!)
俺は貴子さんの柔らかいシルクのパジャマの感触を全身で確かめながら、明日の過ごし方に思いを馳せ、優雅なタワマンのベッドで心地よい眠りにつくのだった。

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シルクの滑らかな手触りと、軽やかな肌触りが心地よい優雅なネグリジェに身を包み、ふかふかのベッドで浅い眠りについていたときだった。
ガタ……と微かにシーツが沈み込む気配がした。
(ん? なに……?)
まどろみの中で意識を覚醒させかけると、すぐ隣から人の体温と静かな吐息が近づいてくる。
旦那さんだ。
静かに布団の中へ滑り込んできた彼は、背後から吸い付くように身体を寄せてくると、俺——いや、貴子さんの細い腰にそっと腕を回し、後ろから優しく抱きしめてきた。
(うおっ! マジか、旦那様!? 体調不良って言って断ったはずじゃ……!?)
俺は心臓が口から飛び出しそうになるのを必死で抑え、規則正しい寝息を立てながら完璧な「寝たふり」を決め込むことにした。
ここで下手に動いて目を覚ましたと悟られれば、本格的な夜の営みに雪崩れ込む危険性がある。
(頼む……ただの抱き枕代わりに抱きしめて寝るだけで終わってくれ……!)
しかし、俺の願いも空しく、旦那さんの手がゆっくりと上へと滑り出してきた。
繊細なシルクネグリジェの生地越しに、貴子さんの豊満な胸をそっと包み込む。
「ん……っ……」
旦那さんの大きな手が、優しく、愛おしむようなスローペースで胸を揉みほぐし始めた。
指先が生地越しに肉感を捉え、適度な圧力で形を変えていく。
(っ……! やばい……っ!!)
身体は完全に40代半ばの感度豊かな貴子さんそのものだ。
夫からの長年の愛撫に反応するよう刷り込まれた身体は、寝たふりを続ける俺の理性をあざ笑うかのように、ダイレクトに甘い快感を脳へと打ち上げてくる。
背中から伝わる旦那さんの身体の熱。
ネグリジェ越しに柔らかく、そしてじっくりと揉み揉まれる胸の感触。
胸の奥から「キュン」と切なく締め付けられるような甘い刺激が走り、身体が自然と熱を帯びていく。
(あ! 身代わりとして旦那を騙してる背徳感と、貴子さんの身体の感度が混ざり合ってっ!)
呼吸を乱さないよう歯を食いしばる俺の身体の反応を裏切るように、ネグリジェの生地の向こうで、胸の先端——乳首がキュッと固く尖っていくのがはっきりと分かった。
(っ! 乳首が固くなってきたの、絶対手に伝わってるだろこれ……!?)
旦那さんの指先が、固くなった先端の突起を確かめるように、ネグリジェ越しにそっと撫でさすった——。

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(う……嘘だろ……めちゃくちゃ優しい手つき……っ)
旦那さんの手は決して強引ではなく、愛おしい宝物を壊さないように慈しむような柔らかさだった。
シルクのネグリジェ越しに、固く尖った先端を優しく包み、コリコリと円を描くように指先で転がされる。
そのたびに、胸の奥から「キュン」と切ない熱が下腹部へ向かってじんわりと広がり、身体の力が抜けていく。
(あ、ダメだ.これ、正直めちゃくちゃ気持ちいい。このまま旦那さんに甘く揉まれながら、ずっとこの快感に浸っていたい)
身体が完全に貴子さんだからこそ感じる、女体特有の熟した甘美な刺激。
元・男としての理性が、その未知の快感に呑み込まれそうになる。
だがその時、俺の脳内にある『貴子データベース』が緊急アラートを打ち鳴らした。
(待て! 過去の記憶を検索しろ! この展開……この『優しいおっぱい揉み』からスタートした夜の記憶)
ズバババッ! と頭の中に駆け巡る貴子さんの過去の記憶。
そこにあったのは——この「優しい愛撫」に流されて寝たふりを続けていると、旦那さんのスイッチが完全にオンになり、ネグリジェを捲り上げられてそのまま夜の本格的な営みへとなだれ込むパターンが9割以上という衝撃の事実だった!
(やばいやばいやばい!! このまま甘受してたら間違いなく襲われる!! 旦那さんの欲望が爆発する前に止めなきゃ!!)
だが、どうやって止める?
急に暴れて拒絶すれば、「体調不良じゃなくて俺を拒絶しているのか?」と旦那様を傷つけ、余計な不審感を抱かせてしまう。
貴子さんの過去の記憶から、このピンチを切り抜ける「正解の行動」を高速で検索する。
(……あった! これだ!!)
こういう時の貴子さんの必勝パターン。
それは——『まどろみの中で優しく起きたフリをして、自分から甘いキスを贈り、「今日はダメ♡」と可愛くおねだりするように諭す』こと!
俺は意を決した。

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「ん……ぁ……っ……」
微かな吐息を漏らし、まぶたをゆっくりと開ける。
あたかも「優しく胸を触られたことで、心地よい眠りから甘く目を覚ました」かのように装い、ベッドの中でくるりと身体を反転させた。
目の前には、薄暗い部屋の中で愛おしそうに俺(貴子)を見つめる旦那様の顔。
「あ……貴方……? まだ起きてらしたの……?」
貴子さんの艶やかで、少し寝ぼけたような可憐なトーン。
旦那様は手が止まり、少し決まり悪そうに苦笑いを浮かべた。
「あ……ごめん、起こしちゃったかい? 君があまりにも可愛らしくて、つい……」
俺は返事をする代わりに、そっと細い腕を旦那様の首に回した。
そして、顔を近づけ、彼の唇に自分の唇を重ねた——ちゅっ、と静かで、甘く柔らかいお休みのキス。

「ん……っ」
唇を離すと、旦那様はすっかり毒気を抜かれたように、情熱的な瞳から優しい眼差しへと変わっていた。
俺は旦那様の胸にそっと頭を預け、固くなった胸の先端を彼の肌に擦り付けるようにしながら、上目遣いで甘く囁いた。
「ね、貴方。……気持ちよかったけれど、今日は本当にダメよ? 頭も少し重いし……明日、また優しくしてね……?」
語尾にほんのりと熱を込めた、完璧なおねだり拒絶。
旦那様は「くっ……」と愛おしさに胸を打ち抜かれたような表情を浮かべると、俺の額に優しくキスを落とし、しっかりと抱きしめ直してくれた。
「……ああ、わかったよ。ごめんね、貴子。……おやすみ」
「ええ……おやすみなさい、貴方……」
旦那様の荒い息遣いが徐々に落ち着き、規則正しい寝息へと変わっていく。
背中に回された彼の腕の温もりを感じながら、俺は心の中で大きく胸を撫で下ろした。
(うぅぅぅ……! 危ねぇぇぇ!! 危機回避、完全成功!!)
ネグリジェの向こうで未だにキュッと固くなったままの乳首の余韻を感じつつ、なりすまし屋キヨヒコは、港区マダムとしての激動の初日の夜を無事に乗り切ったのだった。

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カーテンの隙間から、秋の清々しい朝の光が薄暗い寝室へと差し込んでいた。
まだ静まり返った部屋の中で、俺はパチリと目を覚ます。
隣では、旦那様が穏やかな寝息を立ててぐっすりと眠っていた。
(よし……2日目のスタートだな)
昨夜の「優しくおっぱいを揉まれまくって乳首がカチカチに固くなる」という絶体絶命のデンジャラスゾーンを完璧な演技力で切り抜けた俺は、静かにベッドから抜け出した。
ネグリジェを脱ぎ捨て、クローゼットから朝のルーティンにふさわしい上品な部屋着をセレクトする。
貴子さんの記憶を脳内で手繰り寄せ、彼女の朝の行動パターンを注意深くトレースしていく。
(貴子さんにとっての朝の家事……それは『セレブとしての優雅で裕福な暮らしを維持するための、最小限のコスト(投資)』なんだよな)
そう、貴子さんは決して旦那様を愛していないわけではないが、彼女の優先順位のトップにあるのは「港区のタワーマンション最上階での自由で贅沢な生活」と「麻美さんとの甘い密会」だ。
そして、その優雅な生活を支える資金源こそが、投資ファンド役員である旦那様。
「朝食をちょっと豪華に作ってあげるだけで旦那の機嫌がすこぶる良くなり、自由と金銭的な潤いが手に入るなら、朝食作りの30分なんて安いものよ」……それがマダム貴子の割り切ったリアルな本音だった。
(くぅ〜、打算的! でも、持続可能な夫婦関係としては案外理にかなってるのかもしれん……)

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俺は貴子さんの記憶にある手際を完璧に再現しながら、オープンキッチンに立った。
挽きたての高級コーヒー豆の香ばしい香りがキッチンを満たしていく。
メインは、昨日買っておいたフレッシュなトリュフオイルを回しかけたスクランブルエッグと、厚切りベーコンのソテー。さらに、近所の有名ベーカリーで仕入れたクロワッサンをオーブンで軽く温め、フレッシュな無農薬野菜のサラダには特製の柑橘ドレッシングを添える。
「ん……いい香りだね、貴子」
7時半過ぎ、身支度を整えた旦那様が寝室から出てきた。
ネクタイを締める前のリラックスした姿だが、さすが港区のエリート役員、立ち姿だけで様になっている。
「おはようございます、貴方。昨夜はよく眠れましたかしら? 体調を心配させてしまってごめんなさいね」
俺は貴子さんの艶やかで落ち着いたトーンで微笑み、挽きたてのコーヒーをカップに注いでテーブルへ差し出した。
「いやいや、体調はもう大丈夫かい? 昨夜は無理をさせてしまってこちらこそ申し訳なかった。それにしても、今朝もまた素晴らしい朝食だな!」
テーブルに並べられたホテルのブレックファストのような朝食を目にして、旦那様はパッと表情を明るくした。
昨夜の美味しいハンバーグに続き、今朝の極上モーニング。旦那様の機嫌の良さは、すでにメーターを振り切らんばかりである。
「貴方の健康を守るのが、私の役目ですもの。さあ、冷めないうちに召し上がってくださいな」
「ありがとう、いただきます」
クロワッサンを一口かじり、コーヒーを啜る旦那様。
その顔には、絵に描いたような「家庭の幸せ」を噛みしめる満足感が溢れていた。
(よしよし、朝食投資の効果は絶大だな! 貴子さんの戦略、マジで完璧すぎるぜ)

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食事を終えると、出勤の時間が近づいてくる。
俺は旦那様の後ろにスッと回り込み、仕立ての良いブランドスーツの上着を広げて着るのを手伝った。
さらには、ネクタイの曲がりを指先で優しく直してあげる
「はい、完璧ですわ。今日も素敵なお召し物ね、貴方」
「ふふ、君に整えてもらうと身が引き締まるよ」
旦那様は心底嬉しそうに目元を緩めると、玄関で革靴を履きながら、ふと思い出したように俺(貴子)を振り返った。
「そうそうだ、貴子。今日の仕事なんだけどね、夕方には区切りがつきそうなんだ」
「あら、そうなのですか?」
「ああ。だから……今日はいつもより早めに帰れると思う。17時頃には戻れるから、夕食前に二人でゆっくりショッピングにでも行かないかい?」
(ショッピング……! 昨日の打ち合わせで貴子さんが言っていたやつだ!)
『もし昼間に「久しぶりに買い物でも行くか」なんて誘われたら、それは付き合ってあげてほしいの。連休中に夫を完全に放置すると、後で不機嫌になられて後々面倒だから』
脳内で貴子さんの昨日のアドバイスが再生される。
完璧ななりすまし遂行のため、ここは喜んで乗るのが正解だ。
「まあ! ショッピングだなんて、とても嬉しいわ! 最近、秋物の新しい服や小物も見てみたかったところなんですの」
俺が弾んだ声で返すと、旦那様は満足そうに頷き、さらに嬉しい追撃を加えてきた。
「よかった。あ、それとね、今日の夕食は君が料理を作る手間を省けるように、前々から君が行きたがっていた高級フレンチのディナーを予約しておいたよ。買い物帰りにそのまま向かおう」
(高級フレンチのディナー予約まで!? 旦那様、どこまで至れり尽くせりなんだ!!)
「まあ、本当ですか!? ずっと楽しみにしていたあのお店……! 嬉しいわ、貴方ったら本当に気遣いの人ね」
俺は両手を胸の前で合わせ、本物の貴子さん以上に感激してみせた。

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手料理一つ、朝食一つでここまで尽くしてくれる旦那様。不倫や身代わりをしている罪悪感がちょっとだけチクチク痛むが、今は完璧に貴子さんを演じ切ることが俺の仕事だ。
「ふふ、じゃあ17時にマンションの下で待ち合わせにしよう。楽しみにしているよ」
旦那様は俺の頬に軽くチュッと親愛のキスを落とすと、最高の笑顔を残して仕事へと出かけていった。
カチャリとドアが閉まり、静まり返る玄関。
「……ふぅぅぅぅ!! 朝のミッションも大成功!!」
俺は貴子さんの姿のまま、ハイヒールを鳴らしてリビングへ戻った。
成功報酬200万円がかかった身代わり生活2日目。
今夜は旦那様との「ショッピング&高級フレンチディナー」という、港区セレブの王道デートが待っている!
「さて……17時までに、どの秋物コーディネートで行くか、クローゼットで完璧に吟味しておきますか!」
俺は貴子さんの艶やかな声でウインクを一発飛ばすと、再びあの魅惑のクローゼットへと向かうのだった。

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重厚なウォークインクローゼットの扉を閉めると、そこは外界から完全に切り離された、眩いばかりの欲望の聖域だった。
一面に張り巡らされた姿見の鏡。
ダウンライトの柔らかな光が、整然と並ぶハイブランドのコレクションを美しく照らし出している。
「……ふぅ。よし、旦那様が出かけるのを見送ったところで、第二回・一人着せ替えショーの開催と行きますか!」
口から漏れ出たのは、マダム貴子の艶やかな美声だったが、内容は俺——キヨヒコ本来の男らしいものだった。
完全密室、誰の目もないこの空間だからこそ許される、束の間の一人言タイムだ。
貴子さんの脳内データベースを検索すれば、どの服がどう似合うか、どんなコーディネートが周囲にどんな印象を与えるかという知識は100%頭に入っている。
だが、知識として知っているのと、実際にこの手で触れ、着て、鏡に映る自分の姿を目に刻むのとでは、興奮の桁が違うのだ。
「知識としては分かってんだよ? でもさぁ、男として生まれたからには、こういう最高級のレディースファッションを自分の体で試せるなんて、夢のような体験なわけですよ!」
俺は腕をまくり、高鳴る胸を押さえながら棚の奥へと進んだ。
まず目に飛び込んできたのは、前回も一瞬目を奪われた、大胆すぎる真っ赤なレースのランジェリーセットだった。
情熱的なブラッドレッド。海外の高級ブランドのもので、繊細な刺繍と極薄のチュール生地が絶妙な官能さを醸し出している。
「うおっ……! これ、記憶にあった『麻美さんとの情熱的な夜』用の勝負下着か! マジで刺激が強いな……! 実際に着たらどんな感じになるんだ?」
誘惑に負けそうになり、指先でその赤いレースの感触を確かめる。シルクのように滑らかな肌触り。これを身につけた自分を想像するだけで、頭の奥がカーッと熱くなってくる。
「いやいやいや! 落ち着け俺! 今日の夕方は旦那様とのショッピング&高級フレンチデートだぞ!? もしデート中に万が一のことがあって、この情熱的な真っ赤なTバックが見えたりしたらどうするんだよ! 『貴子、今日は随分と積極的だね』なんて思われて、夜の攻防戦が再発したら目も当てられねぇ!」
俺はぶんぶんと首を振り、真っ赤な下着をそっと棚に戻した。

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「今日のデートは、旦那様好みの『落ち着いた大人の優雅なマダム』で行くのが正解だ。旦那様は、派手な色合いよりも、シックで品のあるニュアンスカラーや、シルクやカシミアの質感を活かした上品なスタイルが好みのはず……」
貴子さんの記憶から旦那様のフェチシズムと好みを正確に抽出し、下着エリアから透け感の少ないエレガントなモカベージュのシームレスブラ&ショーツをチョイスした。
「よし、下着はこれで確定。服は……そうだな、シルクのボウタイブラウスに、絶妙な膝下丈のキャメル色のタイトスカート。上に羽織るのは軽いトレンチコート。これなら旦那様も『やっぱり俺の妻は最高に品があって美しい』って鼻高々になるはずだ!」
夕方のデート用コーディネートを完璧に組み上げ、ハンガーにかけて準備を整える。
しかし——ふと壁の時計に目をやると、針はまだ午前11時を回ったところだった。
「……待てよ? 旦那様と待ち合わせの17時まで、まだ6時間近くもあるじゃねぇか……」
広いタワマンに一人きり。
誰にも邪魔されない自由時間。
そして目の前には、世界中の高級ブランドが勢揃いした夢のクローゼット。
俺の口元が、ニヤリと悪戯っぽく歪んだ。
「……なぁんだ、時間たっぷりあるじゃん! だったらさぁ、夕方までは『俺(キヨヒコ)好みの女子高生〜女子大生風ストリートカジュアル』を思いっきり楽しんじゃっても誰も文句言わないよな!?」
そう、ここまではマダム貴子の好みや旦那様の好みに合わせて服を選んできたが、元・野郎としての俺にも「こういう女の子の服装、めちゃくちゃ可愛くて好きなんだよなぁ!」というフェチズムが山ほどあるのだ!
「よしっ! 貴子さんのストックの中から、若者向けのカジュアルアイテムを発掘するぞー!」
俺はクローゼットの奥、貴子さんが昔買ったきり着ていないカジュアルウェアのエリアをガサゴソと漁り始めた。

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「おおっ、あったあった! このオーバーサイズのダボッとしたブランドパーカー!」
俺が手にとったのは、上質なフレンチテリー素材で作られた黒のハイブランドパーカー。
これを貴子さんの体で着てみると、ダボッとした袖から華奢な指先だけがちょこんと覗く、いわゆる「萌え袖」の状態になった。
「うわ……近っ! 鏡で見ると威力ヤバっ! 女子の萌え袖って、男目線から見るとマジで破壊力高いけど、自分でやるとこんなにテンション上がるのか!?」
さらに、下にはショートパンツを合わせ、パーカーの裾からチラリとだけパンツが見える「ボトムス履いてない風」のスタイルを完成させる。
脚には薄手の黒ストッキングを履き、足元はあえてゴツめのハイブランドスニーカー。
姿見の前に立ち、くるりと一回りしてみた。
鏡に映っているのは、落ち着いたセレブマダムの面影を残しつつも、まるで休日に部屋でくつろぐ『小悪魔的な可愛さを持つお姉さん』の姿だった。
「うわぁぁぁ……! これこれ! これだよ! 男が街で見かけたら思わず二度見しちゃう『ギャップ萌え』の最高峰!! 貴子さんのスタイルが良いから、カジュアルな服着ても脚の長さと細さが引き立ってめちゃくちゃ映えるじゃん!」
あまりのハマり具合に、一人で大興奮だ。
髪型も少し手ぐしで崩し、ボブヘアを無造作に揺らしてみる。
首を少し傾けて、ウインクを一発。

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「『ねぇねぇキヨヒコくん、今日はお部屋で何して遊ぶ〜?』なんてな! ぐわぁぁぁ、自分で言っといて胸キュンするわ! 女子高生になりすました時も楽しかったけど、大人の女性の体がやるカジュアルスタイルって、また違った背徳感があって最高すぎるだろ!」
一人でノリノリのポーズを決めながら、独り言が止まらない。
「パーカーのこのフードの重みと、ストッキング越しの太もものすべすべ感……。女の人って、毎日こんなに色んなバリエーションのおしゃれを楽しんでるのかぁ。そりゃ服買うの楽しくて破産する人も出るわけだわ」
パーカーのポケットに手を突っ込み、ランウェイを歩くモデルのようにクローゼットの中を闊歩してみる。
ハイヒールのカツカツという音とは違う、スニーカーの静かな足音が新鮮だ。
「ふぅ……最高。マジでこの『なりすまし屋』のバイト、お金がもらえるだけじゃなくて、男としての夢が全部叶う神バイトすぎるな」
散々鏡の前で一人ポーズを決め、いろんな角度から自分の(貴子さんの)姿を鑑賞し、自画自賛の独り言を叩きつけること小一時間。
存分に「俺好みの服装」を全身で満喫した俺は、満足感いっぱいの大きな溜め息をついた。
「はぁ〜……楽しかった! めちゃくちゃリフレッシュできたぞ!」

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壁の時計を見ると、時刻はそろそろお昼過ぎ。
「よしっ、自分好みの着せ替えショーはこれにて終了! 楽しんだ後は、プロとして完璧に気持ちを切り替えないとな」
俺は名残惜しくもオーバーサイズパーカーとショートパンツを脱ぎ捨て、再び全裸の貴子さんの身体へと戻った。
そして、先ほど完璧に準備しておいた「旦那様好みのモカベージュの下着」と「キャメル色のタイトスカート&シルクブラウス」を丁寧に身につけていく。
鏡の中の姿が、一瞬にして『可憐なカジュアル女子』から『港区の洗練された極上マダム』へと塗り替えられていった。
「ふふ……完璧ね。夕方のショッピングと高級フレンチディナー……旦那様を存分に魅了して差し上げましょう」
マダム貴子の艶やかな声で鏡の中の自分に囁く。
200万円の成功報酬をかけたシルバーウィーク2日目。
自分好みのファッションでテンションを最高潮まで上げた俺は、旦那様との夕方のデートに向けて、完璧な貴子さんとしてリビングへと向かうのだった。

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デートの装い1

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デートの装い2

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昼食はキッチンで手早く、冷蔵庫にあった高級生ハムとチーズ、それに軽いクラッカーで簡単に済ませた。
セレブの冷蔵庫は手軽な軽食すら一流品ばかりで、これだけでも十分に美味い。
(よし、お腹も満たされたし……と)
時計を見ると、針はまだ13時半を回ったところ。
旦那様との待ち合わせは17時だが、俺は少し早めの14時にはタワマンを出発することにした。
理由はシンプル。旦那様と落ち合う前に、先にブランドショップをいくつか回って「自分が欲しいもの」や「おねだりしたい品」の目星をつけておくためだ。
クローゼットで完璧に仕上げた「旦那様好みの上品マダムコーデ」に身を包み、トレンチコートを軽く羽織る。
玄関で姿見に映る貴子さんの姿を最終チェックし、アメックス・プラチナカードの入ったブランドバッグを手に取った。
「ふふ、行ってきます」
貴子さんの艶やかな声で呟き、ハイヒールを鳴らして玄関を出る。
秋の澄んだ風が、貴子さんのボブヘアを心地よく揺らす。
流しのタクシーを拾い、目的地である銀座のハイブランド街へと向かう車内。
革シートに深く腰掛けながら、俺の頭の中にふと、あるリアルで切実な疑問が浮かび上がってきた。
「……あ、待てよ?」
口の中で、俺(キヨヒコ)本来の呟きが漏れかける。
(今日、旦那様とショッピングに行って、もし服やらバッグやらアクセサリーやらを買ってもらったとするだろ?)
思考がぐるぐると回転し始める。
(それって……依頼が終わった後、本物の貴子さんに全部渡さなきゃいけないのかな?それとも、身代わりとして頑張った俺の『役得(プレゼント)』として、そのままもらっちゃっていいものなのかな!?)
これ、めちゃくちゃ重大な問題じゃないか!?

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もし貴子さんに全部渡すとなると、買い物のテンションは「貴子さんが好きそうなもの」を選ぶ作業ゲーになってしまう。
でも、もし「買ったものは身代わりのあなたが自由にしていいわよ」なんてルールだったら……?
メンズでも使えるユニセックスの高級時計や、後で質屋に入れたら大金になるブランドジュエリーをおねだりした方が、200万円の報酬にプラスアルファされて激アツすぎる!
(貴子さんとの事前打ち合わせの記憶を検索してみるか……)
脳内の『貴子データベース』を高速でスキャンする。
……が、あの打ち合わせで貴子さんが言っていたのは、
『もし昼間に「久しぶりに買い物でも行くか」なんて誘われたら、付き合ってあげてね。後で不機嫌になられても面倒だから』
という指示だけで、「買った物の所有権」については一切言及されていなかった。
(うーん。 貴子さん的には『夫婦のカードや旦那の金で買ったんだから、私のクローゼットに入るのは当然』と思ってそうでもあるし、逆に『身代わりを引き受けてくれたお礼代わりに、何か好きなもの買ってもらいなさいな』くらいの太っ腹なセレブ精神かもしれない)
タクシーが銀座の街並みへと入っていく。
車窓に映る、シャネル、ヴィトン、カルティエの煌びやかなウィンドウ。
(まあ、旦那様が買ってくれると言っているんだ。旦那様の前では『貴子さんが喜びそうな、でも俺(男)としても価値がある・または貴子さんに渡しても喜ばれる最高センスの逸品』をチョイスするのがプロの立ち回りか)
「お客様、銀座に到着いたしました」
「ありがとう」
タクシーを降り、銀座の歩行者天国へと足を踏み入れる。
17時の旦那様との合流まで、あと約3時間。
俺は貴子さんの優雅な取り澄ました笑顔を浮かべつつ、心の中では「所有権問題」への期待と好奇心を膨らませながら、ブランド街の下見へと乗り出していった。

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高級ブランドの露面店が立ち並ぶ通りを歩き、貴子さんの記憶にある行きつけの最高級コスメカウンターへ。
重厚なガラスドアをくぐると、店内には優雅なフローラルの香りが漂い、洗練されたビューティーアドバイザー(たちが一斉に美しいお辞儀で出迎えてくれた。
「あら、貴子様! いらっしゃいませ」
担当さんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
(よし……いくらアメックス・プラチナカードを預かっているとはいえ、勝手に自分の判断で買い込んで後から貴子さんに『何勝手にカード使ってんのよ!』って激怒されたら元も子もないからな)
プロのなりすまし屋として、無駄なリスクは冒さない。
俺は貴子さんの上品で艶やかな笑みを完璧に浮かべ、手短に店内でのスタンスを伝えることにした。
「こんにちは。……ふふ、実はね、後で主人が合流して一緒にお買い物をしてくれる予定なの。だから今日は、主人が来る前に今のおすすめの新作アイテムや、秋の限定品をいくつか紹介してもらおうと思って立ち寄ったのよ」
「まあ! 旦那様とご一緒にお買い物ですか! 本当にいつも仲がよろしいですね」
BAさんはうっとりと目を輝かせ、手袋をつけた手で恭しくドレッサーのシートを引いた。
「かしこまりました。それでは旦那様がいらっしゃるまでの間、貴子様のお肌に合わせた秋の新作スキンケアと、今季トレンドのメイクアップアイテムをご提案させていただきますね。どうぞお掛けになってください」
(よしっ、説明完了! これなら旦那様が来たら『これをおすすめされたの♡』って可愛くおねだりできるし、カードの無断使用で貴子さんに怒られる心配もゼロだ!)
ふかふかのシートに深々と腰掛け、鏡に映る自分——マダム貴子の姿を見つめる。
「まずはこちら、今月発売されたばかりの最高峰プレミアム美容液でございます。貴子様の透き通るようなお肌のツヤを、さらにワンランク引き上げてくれますよ」
BAさんが手の甲にすっと美容液を伸ばしてくれる。
極上の香りと、肌に吸い付くようなしっとりとしたテクスチャー。
貴子さんの身体の皮膚感覚が、その贅沢な使い心地にうっとりと反応する。
「まあ……すごく肌なじみがいいわね。しっとりするのにベタつかないわ」
「お目が高いです! それから、旦那様とのディナーにぴったりな、秋限定のシアーなルージュもおすすめでございます」
秋らしい深みのあるローズ系のリップや、繊細なラメが入ったアイシャドウパレット。
次々と紹介される極上コスメの数々に、貴子さんの知識と元・男としての好奇心が合わさって、気分がどんどん上がっていく。
(なるほどなぁ……こうやってプロに相談しながらお買い物用のリストを作っておけば、旦那様が来た時もスマートに誘導できるし、旦那様も『妻が嬉しそうに買い物してる』って満足感を得られるわけだ!)
「これと、あの美容液のセット……主人が来たら見てもらおうかしら」
「ええ、きっと旦那様も『貴子様にとてもお似合いだ』とおっしゃってくださいますよ!」
BAさんとの華やかなトークに花を咲かせながら、俺は17時の旦那様との合流に向けて、完璧な「おねだりショッピングリスト」を優雅に組み立てていくのだった。

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コスメショップを出た俺は、銀座の街を優雅に歩きながら、次に向かうべき服のショップを頭の中で吟味していた。
(さて、次は服だな……。貴子さん好みのエレガント系か? 旦那様好みの落ち着いたマダム系か? それとも、俺好みのギャップ萌え系か……?)
一瞬迷ったが、貴子さんの膨大な記憶データベースをスキャンしていた俺の脳内に、ピンと来るショップの情報が引っかかった。
(……待てよ? 貴子さんの記憶にあるこの店……ハイブランドでありながら、洗練されたラグジュアリーストリートカジュアルを展開してるブランドじゃないか!)
そこは、貴子さんにとっては「たまに休日用の遊び心ある服を買う店」であり、俺(キヨヒコ)にとっては「まさにドンピシャで大好きな、ストリート感と大人の色気が融合したデザイン」が揃う場所。
つまり、【貴子が知っていて自然に立ち寄れる店】でありながら、【完全に俺好みの服が置いてある店】という、まさに一石二鳥の奇跡的なスポットだった!
「ふふ……あそこにしましょう」
貴子さんの艶やかな声で小さく呟き、俺はヒールの音を鳴らしてその路面店へと向かった。
ガラス張りのスタイリッシュな店内に入ると、洗練されたスタッフが恭しくお辞儀をして出迎えてくれる。
店内に飾られているのは、エッジの効いたシルエットのジャケットや、上質な素材で作られたルーズフィットのニット、スタイルを抜群に見せる変形タイトスカートなど、俺の「フェチ心」を激しくくすぐる服ばかりだ。
(うわぁ! マジで最高のラインナップじゃん! 貴子さんのあのクローゼットにあったパーカーとも相性抜群だし、男目線から見ても『こんな服着てるお姉さん、マジで最高にエロ格好いい』って思えるやつばっかりだ……!)
俺は貴子さんの優雅な立ち振る舞いを維持しつつ、瞳の奥では元・野郎としての興奮をメラメラと燃やし、ラックに並ぶ服を一枚一枚手に取っていった。
「貴子様、本日はどのような雰囲気のアイテムをお探しでしょうか?」
すっと寄ってきた店員に、俺は貴子さんらしい余裕の笑みを向ける。
「今日はね、後で主人が合流してくれる予定なの。少し遊び心のある、でも大人っぽく着こなせる秋物をいくつかピックアップしておきたくて」
「さようでございますか! それでしたら、こちらの新作のオーバーサイズ・レザーブルゾンと、アシンメトリーなニットワンピースの組み合わせはいかがでしょうか? 女性らしさを引き立てつつ、とてもクールに着こなしていただけますよ」
店員が掲げたコーディネートを見て、俺の心の中のキヨヒコが叫んだ。

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((うおおおおお!! それ!! まさにそれだよ!! 男が一番好きな『華奢な女体が際立つクール&セクシー』なスタイル!!))
「あら……とても素敵ね。試着してみてもいいかしら?」
「もちろんでございます、こちらへどうぞ!」
試着室に入り、服を脱ぎ着しながら姿見の前に立つ。
鏡の中に現れたのは、貴子さんの持つ抜群のスタイルと色気に、俺好みのエッジの効いたストリート感が完璧に融合した、極上の『カッコ可愛いマダム』の姿だった。
(やっば。めちゃくちゃ似合うじゃん! 旦那様に見せたら『今日の貴子はなんだか新鮮で、すごく魅力的だ』って絶対なるやつだぞ、これ!)
俺は試着室の中で一人、静かにガッツポーズを決めた。
店員に「これ、とても気に入ったわ。主人が来たら見てもらうわね」と取り置きを頼み、完璧な「おねだり準備」を整える。
時計を見ると、時刻は16時半を回っていた。
旦那様との約束の17時まで、あと30分。
(よし……コスメも服も、俺の好みと貴子さんのステータスを両立させた最高のスナイプ準備が完了したぞ!)
俺は胸の高鳴りを抑えながら、旦那様との待ち合わせ場所へと向かうのだった。

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