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壊れた世界の、いちばん綺麗な壊れ方
夕暮れのクレーンが、真っ赤に焼けた空を乱暴に引っ掻いていた。
蝉時雨と、アスファルトを削る重機の爆音。
油臭い汗が安全ヘルメットの顎紐を伝って、48歳の煤けた肌を濡らす。ヨシアキは、自分の人生がこの濁った轍(わだち)のようだと常々思っていた。
誰も通らない、誰の記憶にも残らない、ただすり減るだけの、しがない舗装工事。
身内はいない。帰る家には、消し忘れたテレビの砂嵐だけが待っている。
「おい、おっちゃん! そこ危ねえぞ!」
若手の怒鳴り声と、金属が激しく軋む悲鳴が重なったのは、本当に一瞬のことだった。
頭上から迫る、巨大な鉄骨の影。
視界の端に、なぜか場違いな銀色の髪がひらりと揺れた。
「あ――」
声にならない叫びをあげて、吉昭は体が動くよりも先に、その銀髪の少女を突き飛ばしていた。
直後、すべてを叩き潰すような衝撃と、鼓膜を震わせる轟音。
吉昭の視界は、どす黒い闇へと墜ちていった。
次に目が覚めたとき、世界はあまりにも静かだった。
「……う、あ……」
喉を震わせようとして、吉昭は自分の声の奇妙さに硬直した。
いつもなら、タバコで焼けたガラガラのがなり声が出るはずだった。
だが、鼓膜に届いたのは、掠れた、しかし酷く透明な響き。
(どこだ、ここは……病院、か?)
体を引き起こそうとして、さらなる違和感に襲われる。
いつも吉昭の体を苛んでいる、万年の腰痛がない。
それどころか、自分の意思で動かした手は、骨張って真っ黒に日焼けした「おっさん」の手ではなかった。
白磁のように白く、驚くほど細い、しなやかな5本の指。
慌てて寝台からずり落ちるようにして、病室の洗面台へ縋り付いた。鏡の中に映っていたのは――。
「な、んだこれ……」
夕暮れの光を浴びて、淡く輝く銀髪のショートカット。
すっきりと通った鼻筋に、彫りの深い、わずかに青みがかった大きな瞳。
日本人の父親と、ロシア人の母親の血を引いた、17歳の少女の顔。
吉昭の記憶の最後にあった、あの現場にいるはずのない、眩しいほどの美貌だった。
「アンナ! 目が覚めたのね!?」
病室のドアが勢いよく開き、駆け込んできたのは、息を呑むほどスタイルの良い美女――テレビや雑誌で見かける、あの有名なモデルの姉だった。
その後ろから、涙を浮かべた優しそうな中年夫婦が、吉昭を、いや、「アンナ」を抱きしめようと両手を広げている。
温かい。
記憶にないほどの、圧倒的な家族の体温。
頭の中に、見知らぬ、けれど切ないほど鮮明な「アンナ」としての記憶が、濁流のように流れ込んでくる。高校2年生の日常、学校のチャイム、家族との食卓。
「お父さん、お母さん、よかった……! アンナ、どこも痛まない?」
姉の問いかけに、吉昭は声が出せなかった。
鏡の中の少女が、怯えたように目を見開いている。
のちに看護師たちの囁き声で知ることになる。
あの工事現場で少女を庇った48歳の独身作業員・ヨシアキの肉体は、いまも集中治療室で、人工呼吸器に繋がれたまま、ピクリとも動かない重体であるということを。
引き返す道は、もうどこにも繋がっていなかった。
吉昭は、この見知らぬ少女の、眩しすぎるほど温かい人生の幕を、自分の手で引き上げるしかなかった。
アンナとして。
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病室のクローゼットの扉には、一枚の制服が丁寧にハンガーに掛けられていた。
上品な紺色のジャケットに、同色のチェック柄のスカート。
糊のきいた真っ白なシャツの胸元には、小ぶりの紺色のリボンが添えられている。
一目でそれと分かる、都内でも有数の清楚なお嬢様学校の制服だった。
ヨシアキは自分の細い両手を見つめた。
救急車で搬送された直後、意識のないうちに制服から無機質な病衣へと着替えさせられていたらしい。
体はどこも痛まなかった。ヨシアキが混乱している間に、医師からは「検査目的の入院」であること、そして眠っている間にMRIや採血といった一通りの検査はすでに終わっていることが告げられた。
ふと見ると、白く滑らかな左腕の肘の内側に、小さな注射後の丸いシールがぽつんと貼られていた。
その生々しさが、これが夢ではない現実だとヨシアキに突きつけてくる。
「アーニャ、本当にどこも痛くない? 気分は悪くない?」
心配そうに覗き込んできたママの顔を見て、ヨシアキは危うく見惚れそうになった。
ロシア人特有の、年齢を重ねると体型が変わるという噂を完全に裏切る、信じられないほどの美女だった。
年齢は40代半ばだろうか。
いまのヨシアキ――いや、元のヨシアキと同世代のはずなのに、無駄な脂肪など一切ない、まるで現役のモデルのようなスラリとしたスタイルを保っている。
隣に立つモデルの姉が、この母親の遺伝子を色濃く受け継いでいるのは一目瞭然だった。
「アナスタシア」という格式高い本名を持つこの少女は、この温かい家庭の中で「アーニャ」と愛称で呼ばれている。
その事実が、脳内に馴染んでいく記憶と目の前の光景から同時に理解できた。
「ほら、いつまでもそんな冷たい病衣を着てちゃダメよ。お気に入りのパジャマを持ってきたから、着替えましょう」
ママがバッグから取り出したのは、上質な白いコットン生地のパジャマだった。
レースがあしらわれた、いかにも女の子らしい、清潔感溢れるデザイン。
「あ……」
ヨシアキの喉から、小さな声が漏れた。
着替える。
それはつまり、この「アナスタシア」という17歳の少女の、あまりにも瑞々しく、自分とは対極にある美しい肉体を、嫌でも五感で自覚するということだった。
中身は48歳の、しがない泥臭いおっさんなのだ。
いくら不可抗力とはいえ、こんな清らかな少女の体を自分が自由にしていいはずがない。
凄まじい罪悪感と、思春期の娘を持つ父親のような狼狽が、ヨシアキの胸を激しく突き上げた。
「どうしたの、アーニャ? まだ頭がぼーっとする? お姉ちゃんが着替え伝おうか?」
モデルの姉が、長い手足を揺らして一歩近づいてくる。
「い、いや! 大丈夫! 自分で、できる、からっ」
ヨシアキは慌ててパジャマをひったくるように受け取ると、縋るような思いで病室のシャワールームへと駆け込んだ。
背後で「あら、急に恥ずかしがり屋になっちゃって」とクスクス笑うママの声が聞こえた。
個室の鍵を閉め、狭い空間で一人になった瞬間、ヨシアキは激しい動悸に襲われた。
鏡の中の銀髪の美少女が、困惑と恐怖に染まった瞳で自分を見返している。
よし、とヨシアキは一つ、深く息を吐いた。覚悟を決めなければならない。
病衣の紐に手をかけながら、ヨシアキはまだ見ぬこれからの「アーニャとしての日常」を思い、目の前が眩むような目眩を覚えるのだった。
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シャワールームの狭い空間に、衣類が擦れる微かな音だけが響く。
病衣の紐をほどき、滑り落ちる布地を片手で受け止めた瞬間、ヨシアキは思わず目をつむった。
だが、触覚までは誤魔化せない。指先に触れる肌は、かつて自分が持っていた泥や油にまみれた角質とは180度違う、まるで絹豆腐のように柔らかく、吸い付くような瑞々しさだった。
(信じられねえ。本当に、俺は女の子になっちまったんだな)
恐る恐る目を開けると、そこには言葉を失うほど完璧な、17歳の少女の肢体があった。
モデルをやっているという姉に負けず劣らず、手足が長く、驚くほどスタイルが良い。薄暗いシャワールームの中でも、その白い肌は発光しているかのように見えた。
48年間の人生で、一度も縁のなかった「美」という概念が、いま自分の肉体としてそこにある。
ヨシアキは、まるで国宝のガラス細工にでも触れるかのような手つきで、大急ぎで白いコットン生地のパジャマに袖を通した。
肌に触れるコットンの柔らかさが、おっさんのガサガサした皮膚ではなく、この繊細な少女の肌を通してダイレクトに脳へ伝わってくる。
ボタンを一番上まで留め、大きく一つ深呼吸をしてから、ヨシアキはシャワールームのドアを開けた。
「あら、やっぱりそのパジャマ、よく似合うわ」
待っていたママが、パッと顔を輝かせて近づいてきた。その細くしなやかな指先が、ヨシアキの銀髪のショートカットを優しく撫でる。
ふわりと、上品な香水の匂いが鼻腔をくすぐった。
それは元の世界でヨシアキが嗅いできた、現場のタールや排気ガスの臭いとは無縁の、洗練された「豊かな家庭」の匂いだった。
「顔色も良くなってきたみたい。先生も、今日の検査で異常がなければ明日には退院していいって言ってたわよ」
姉がベッドのシーツを丁寧に整えながら、振り返って微笑む。
「良かったね、アーニャ。学校の友達もみんな心配して、グループトークが大変なことになってるよ。お姉ちゃんが『意識戻った』って返事しておこうか?」
「あ……う、うん。ありがとう……」
ヨシアキは、アーニャの記憶の引き出しを必死に探りながら、できるだけ不自然じゃないトーンで声を絞り出した。
幸い、事故のショックでまだ少し怯えているように見えたのか、家族はヨシアキのぎこちない態度を怪しむ様子はなかった。
退院。それはつまり、このまま「アナスタシア」として、あの清楚なお嬢様学校へ通い、この美しいママや姉と一つ屋根の下で暮らす日常が始まることを意味している。
(だけど、俺の『ヨシアキ』の体は、どうなっちまうんだ?)
温かい病室の片隅で、ヨシアキの心に冷たい澱のような焦燥感が広がっていく。
どこかの集中治療室で、機械に繋がれて眠っているはずの、自分の不細工で孤独な48歳の肉体。
もし、あっちの肉体がこのまま死んでしまったら、自分は完全に『ヨシアキ』としての過去を失い、この『アーニャ』という少女の未来を盗んだまま生きていくことになるのだろうか。
「さあ、アーニャ。ベッドに横になって、少し休みましょう」
ママに促され、ヨシアキは真っ白なベッドへ滑り込んだ。
窓の外は、いつの間にか完全に夜の帳が下りている。
遠くで聞こえる都会の喧騒が、いまのヨシアキには、まるで遠い異世界の出来事のように感じられた。
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朝の光が、病室の薄いカーテンを透かして射し込んでいた。
ヨシアキは目を覚ました瞬間、自分の胸の上に乗っている「重み」のなさに、一瞬だけ強い違和感を覚えた。
いつもなら寝返りを打つたびにズキリと痛む腰も、タバコで荒れた喉の不快感もない。
(そうだ。俺は、アーニャなんだ)
シーツから抜け出し、滑らかな手足を見つめる。
一晩明けても、夢ではなかった。
午前中の最終検査をいくつか受けたが、脳のCTにも血液検査にも異常は見当たらなかった。
医師は「一時的な強いショックによる混乱は考えられますが、身体的には至って健康です」と太鼓判を押した。
ヨシアキの心の動揺は、事故の後遺症として上手く処理されたようだった。
「じゃあアーニャ、お家に帰りましょうか」
ママが優しく微笑み、ハンガーにかかっていたあの清楚な制服――紺色のジャケットとチェックのスカートを、ベッドの上に広げた。
(う、マジか……これを着るのか……)
病衣から制服への着替えは、昨日のパジャマ以上に緊張を強いるものだった。
シャワールームに閉じこもり、冷や汗をかきながら制服に袖を通す。
糊のきいた白シャツのボタンを一つずつ留め、紺色のリボンを胸元で結ぶ。
そして、丈が短く感じるチェック柄のスカートに脚を通した瞬間、ヨシアキは猛烈な背徳感に襲われた。
(おっさんが、女子高生の制服着て喜んでるヘンタイみたいになってねえか、これ……!)
姿見の前に立つと、そこにはどこからどう見ても、気品あふれる名門校のお嬢様が立っていた。
銀髪のショートカットと紺色のジャケットの対比が鮮やかで、息をのむほど洗練されている。
病室に戻ると、ママが「やっぱり、アーニャはこの制服が一番似合うわね」と目を細め、ヨシアキの肩を愛おしそうに抱き寄せた。
病院のロータリーには、父親が運転する輸入車のセダンが横付けされていた。
車に乗る直前、ヨシアキはふと足を止め、病院の奥深く――集中治療室(ICU)がある高層棟を見上げた。
あの中に、管をたくさん繋がれて一人静かに横たわっている「ヨシアキ」がいる。
身内はおらず、面会に来る者もいない。もしこのまま目覚めなければ、ひっそりと処理されて終わるだけの、48年の錆びついた人生。
「アーニャ? どうしたの?」
助手席からママが不思議そうに振り返る。
「ううん。なんでもない」
ヨシアキは車に乗り込み、ドアを閉めた。
静かなエンジン音とともに車が走り出す。
流れていく街並みを車窓から眺めながら、ヨシアキは握りしめたスカートの裾に指をめり込ませた。
高級住宅街にある自宅へと向かう道中、スマートフォンの画面が何度も明るく点滅していた。
画面に躍るのは、アーニャの友人たちからの無数のメッセージ。
『アーニャ大丈夫!? 明日学校来れる?』
『心配したんだからね!』
『事故の現場にいたおじさん、意識不明らしいよ……』
その通知を目にした瞬間、ヨシアキの背筋に冷たいものが走った。
明日から、この少女として学校へ行き、友達と話し、日常を演じなければならない。
48歳のしがない泥臭いおっさんの、まったく新しい、そして酷く危うい「女子高生生活」が、いよいよ始まろうとしていた。
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車が滑り込むように停車したのは、都内の閑静な高級住宅街に建つ、モダンな一戸建ての前だった。
「さあアーニャ、自分の部屋でゆっくり休んでちょうだい。何かあったらすぐ呼ぶのよ」
ママの優しい言葉に頷き、ヨシアキは案内されるようにして二階の「自分の部屋」へと足を踏み入れ、静かにドアを閉めた。
白を基調とした室内は、上質なアロマの香りが漂い、整然と並べられた洋書や可愛らしい小物たちが整然と配置されている。
まさに、恵まれた環境で愛されて育った少女の部屋そのものだった。
ヨシアキは息を吐き出し、胸元の紺色のリボンを解いた。
いくらデザインが優雅でも、慣れない女子高生の制服は48年間の人生で着たどの作業服よりも緊張を強いるものだった。
クローゼットを開けると、ハンガーには肌触りの良さそうなニットや、柔らかい生地のカットソーなど、センスの良い普段着がずらりと並んでいる。
「まずは、着替えないとな」
ジャケットを脱ぎ、スカートのファスナーを下ろして床に滑り落とす。
白シャツのボタンを一つずつ外していくと、やがて全身を映し出す大きな姿見の前に、下着姿の少女が立ち現れた。
鏡の中にいるのは、銀髪を柔らかく揺らした、文句の付けようもない美少女だ。
白磁のような肌に、レースのあしらわれた繊細なインナー。
手足はすらりと長く、全体のラインは驚くほど洗練されている。
ヨシアキはどこか現実感のない心地のまま、自分の――いや、このアナスタシアの身体をまじまじと見つめた。
戸惑いながらも、ふと腰に手をやり、パンツに包まれたお尻のラインに触れてみる。
手のひらに伝わってきたのは、自分のゴツゴツとしたかつての身体とは根本的に異なる、驚くほど柔らかく「ぷにぷに」とした瑞々しい感触だった。
思わず指先が沈み込むような、若々しい弾力。
そのままゆっくりと視線を上げ、胸元へと手を伸ばす。
薄いブラジャー越しに手のひらでそっと包み込んでみると、そこにはお尻の柔らかさとはまた違う、しっかりと詰まったような豊かなボリュームがあった。
軽く揉むように力を込めると、ただ柔らかいだけではなく、若さ特有のみずみずしい「ハリ」が押し返してくる。
(本物、なんだな。本当に、俺はこんな綺麗な女の子になっちまったんだ……)
おっさんとしての記憶と、17歳のお嬢様としての肉体。
そのあまりのギャップに、ヨシアキはクラクラとするような目眩を覚えた。
罪悪感と困惑で胸をいっぱいにしながらも、ヨシアキは大急ぎでハンガーから取り出したコットンのカットソーと柔らかいショートパンツを身にまとった。
着替えを終えてベッドの端に腰を下ろすと、机の上のスマートフォンが再び微かに振動した。
明日から始まる、この身体での「普通の日常」。
ヨシアキはまだ熱の残る自分の手を見つめながら、深く、深く息を吐き出した。
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机の上のスマートフォンを手に取ると、画面にはクラスメイトたちからの通知がズラリと並んでいた。
『アーニャ、大丈夫!? 事故って聞いたけど本当に無事?』
『明日の登校、無理しちゃダメだよ~!』
『ねえねえ、LINE返せる? 心配で勉強手につかない!』
通知の件数を見るだけで気後れしそうになる。
48歳のおっさんの人生において、こんなに大勢の女子高生から一気にメッセージが届くことなど一度もなかった。
(落ち着け。アーニャの記憶を探るんだ)
ヨシアキは画面を見つめながら、頭の中に浮かび上がってくるアナスタシアの記憶に意識を集中させた。
グループトークの中心人物で少しお調子者の「エリカ」、いつも落ち着いていてアーニャの相談相手になってくれる「凛花」……それぞれの顔、話し方、関係性が、水面に浮かび上がる泡のようにすんなりと脳裏に広がっていく。
不思議な感覚だった。
最初はどこか他人事のようだった少女の記憶が、ジワジワと自分自身の体験のように馴染んでいく。
『みんな心配かけてごめんね! 検査も問題なくて、明日から普通に登校できるよ』
『エリカ、ノート見せてくれたら嬉しいな』
言葉遣いに細心の注意を払いながら、フリック入力で一通ずつ丁寧に返信を打っていく。
慣れない操作に時間はかかったものの、全て返し終える頃には、自分が「アーニャ」として振る舞うことにどこか心地よいフィット感さえ覚え始めていた。
ポン、と最後のメッセージを送信し終えたその時、ドアの向こうからコンコンとノックの音が響いた。
「アーニャー? 夕飯の準備ができる前にお風呂に入っちゃいならどう? 今日はゆっくり温まって体を休めなさい」
ママの優しく通る声だった。
「あ……うん、分かった! 今行くね!」
自然と口から出たのは、自分の声とは思えないほど可愛らしいアーニャの声だ。
ヨシアキは部屋のクローゼットから着替えのバスタオルと新しい下着を取り出し、胸に抱えるようにして部屋を出た。
階段を下り、脱衣所へと足を踏み入れる。
広々とした脱衣所には、すでに温かい湯気がうっすらと漂い、高級なバスソルトの爽やかな香りが満ちていた。
大きな鏡の前に立ち、着ていたカットソーの裾をつかむ。
(……よし、お風呂だ)
ヨシアキは意を決して服を脱ぎ始めた。
自分のものとなった、このあまりにも美しい身体を隅々まで洗うために。