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/tachiha/ - たちは板κ

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4fa292ae No.3849

05482c03 No.3941

「……嘘だろ。いや、嘘であってくれ、頼むから」
鏡の中に映る自分を見て、俺――いや、私は、本日三十回目の絶望を噛み締めていた。
そこにいたのは、絹糸のようなプラチナブロンドの髪、夜空の星を嵌め込んだようなサファイアの瞳、そして、どんなに冷酷に歪めても絵画になってしまう、圧倒的な美貌の少女。
間違いない。
俺が前世、死ぬ直前まで徹夜でプレイしていたダークファンタジーRPG『レザレクション・ブレイド』の、最悪・最凶の悪徳王女「シルヴィア・フォン・アルカディア」その人だった。
「なんで数あるキャラの中から、生存ルートゼロの確定デッドエンド持ちに転生するんだよ!」
そう、このシルヴィア。
前半は主人公たちの前に立ちはだかる傲慢な強敵として君臨するのだが、中盤、自分が引き起こした悪政のツケが回り、実の部下に裏切られて処刑される。
その後、彼女の死体を依り代にして魔王が復活するという、救いようのない噛ませ犬ポジなのだ。
普通なら、ここで「悪政をやめて引きこもろう」とか「国外逃亡しよう」と考えるのだろう。
だが、私はフッと自嘲気密に口元を歪めた。
ゲームを全ルート、隠し実績まで完全コンプリートした「トシアキ」としての記憶が、脳内で警告を鳴らしている。
「無駄だな。この世界、シルヴィアが何もしなくても、シナリオの強制力で三年後に帝国が滅びる仕様だ」
メインヒロインである聖女は闇堕ちし、エルフの歌姫は奴隷に落とされ、女騎士長は呪いで狂い死ぬ。
そんな地獄のようなバッドエンドを回避するには、引きこもるどころか、世界そのものを裏からひっくり返す必要がある。
「ま、おもしろいじゃないの」
私はドレスの裾を乱暴に引きちぎり、絹の太ももを露わにした。
鏡の中のシルヴィアが、前世の俺(ゲーマー)らしい、不敵な笑みを浮かべる。
ゲームの仕様、隠しアイテムの場所、すべてのキャラの弱点と攻略法は、この頭の中に完璧に入っている。
悪徳王女の権力と、このチート級の魔力適性。やり方次第では、最強の駒に化ける。
私は部屋の壁に飾られていた、儀礼用の白銀の細剣(レイピア)を引き抜いた。
ずっしりとした重みが、これが現実だと教えてくれる。
「ドレスを着てふんぞり返る悪徳王女の椅子なんて、こっちから願い下げよ。これからは――」
剣を鋭く振り抜き、風を切る。
「私が『姫騎士』になって、シナリオと言う運命を力尽くで捻じ伏せてあげる。待ってなさい、可愛いヒロインたち。誰一人、あの悲惨な結末にはいかせないから」
アルカディア帝国第第一王女、シルヴィア・フォン・アルカディア。
のちに世界を救う「最強の美少女姫騎士」の、これがすべての始まりだった。

ba94e4e2 No.4021

「姫様! 闇市オークションの会場は、この地下洞窟の奥です!」
「……ふん、悪趣味な趣味部屋ね。鼻が曲がりそうだわ」
警護の兵を撒き、単身で闇市場『黒銀の街』へと忍び込んだ私は、銀髪を翻しながら通路を駆け抜けていた。
目的はただ一つ。
『レザレクション・ブレイド』屈指の悲劇のヒロイン、エルフの歌姫エレナの救出だ。
ゲームでの彼女のシナリオは凄惨の一言に尽きる。
伝染病に苦しむ故郷「樹霊の森」を救うため、莫大な借金のカタとして悪徳商人グラハムに身を売ったエレナ。
グラハムは彼女を「伝説の歌姫」としてプロデュースし、その美声と希少価値でオークションの目玉に仕立て上げた。
だが、真実はあまりにも胸糞悪い。
森の伝染病も、借金の提供も、すべてはグラハムが仕組んだマッチポンプ。
エレナの歌に惹かれた富豪たちから金を巻き上げ、最終的に彼女は精神を病んで声を失い、廃人となって捨てられる運命なのだ。
(……だが、それも今日で終わりよ)
豪奢な扉を蹴り開けると、そこは無数の貴族や富豪が蠢くオークション会場だった。
ステージの上、鉄の檻の中には、首輪を嵌められ絶望に瞳を濁らせた美しいエルフの少女が立ち尽くしている。
「さあ紳士淑女の皆様! これこそが森の秘宝、奇跡の歌声を持つエルフの歌姫です! 開始価格は金貨一千枚から――」
司会を務める肥満体の商人、グラハムが豚のような笑みを浮かべて叫ぶ。
「――そのオークション、私が二千枚で落札してあげるわ」
会場の空気が凍りついた。
喝采と欲望に満ちていた空間に、鈴の音のような、けれど氷のように冷たい声が響き渡る。
視線が一斉に私へと集まる。

ba94e4e2 No.4022

私は腰のレイピアに手をかけ、ゆっくりとステージへ向かって歩を進めた。
「な、なんだ貴様は! 警備員! この不審者を叩き出せ!」
「不審者? 失礼ね。アルカディア帝国第一王女、シルヴィア・フォン・アルカディアに向かって言う言葉かしら?」
「ひっ……!? し、シルヴィア殿下!?」
私の顔と、身につけた王家の紋章を見たグラハムの顔が途端に蒼白になる。
檻の中のエレナも、信じられないものを見る目で私を見つめていた。
「シルヴィア殿下……なぜこのような場所に? まさか、そのエルフをお気に召したと?」
汗を吹き出しながら揉み手をするグラハムに、私はフッと冷ややかな笑みを向けた。
「ええ、大いに気に入ったわ。だから……あなたの企みのすべてと一緒に、買い取ってあげる」
「な、なんのことでしょうか……?」
「とぼけないでちょうだい。樹霊の森に毒を撒いて伝染病を捏造し、救援資金と称して莫大な金利で借金を背負わせ、歌姫として売り飛ばす……見事なマッチポンプじゃない。商人としては満点だけど、私の領地でコソコソやるには、少々調子に乗りすぎたわね」
私の言葉に、会場がざわめき立つ。
グラハムは顔を真っ赤にして叫んだ。
「で、でたらめだ! 証拠もないのにそんな言いがかり――」
「証拠? これのことかしら?」
私はポケットから、あらかじめ『知識』を使ってグラハムの屋敷から盗み出しておいた、裏取引の帳簿と毒薬のレシピを突きつけた。
「ひ、ひえっ……!? な、なぜそれを……!?」
「さあ、悪徳商人。王女への不敬、および国家欺瞞の罪で――その命、年貢の納め時よ」
一瞬。
私がレイピアを抜いた瞬間、白銀の閃光が走った。
「ぎゃあああっ!?」
グラハムの腕が上がり、手にしていた檻の鍵が空中に舞う。
私はそれを鮮やかにキャッチすると、一歩でエレナの待つ檻の前へと躍り出た。
カチャリ、と音を立てて首輪を外す。
「大丈夫? エルフの歌姫さん」
「あ……あ……」
怯えるエレナの顎を指先で優しく持ち上げ、視線を合わせる。
ゲームでは絶望に染まっていたサファイアの瞳に、かすかな光が戻っていくのが分かった。
「……あなたの歌声は、こんな泥豚どもの前で披露するためのものじゃないわ。私のために、その声を使いなさい」
「わ、私を……助けて、くれたのですか……? でも、森の借金が……故郷が……」
泣きじゃくるエレナの頭を、私は優しく、けれど力強く撫でた。
「森の毒はすでに私の部下が特効薬を撒いて解決させたわ。借金? 悪徳商人が国家転覆罪で処刑されるんだから、そんな契約は無効よ。……だから、もう泣かないで」
「~っ、姫様……! あ、ありがとう、ございます……っ!」
私の胸に飛び込んで号泣するエレナを抱きとめながら、私は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
(よし、メインヒロインその一、エレナの救出&フラグ回収完了! ……さて、次はどの絶望(シナリオ)を叩き潰してやろうかしら?)



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